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2024/03/29 06:03 |
『空色少年物語』番外編「蜃気楼閣の歌姫」
内部的に空色24を書き終わった喜び。
まだまだ修正は必要ですが、まあそれはそれ!
というわけで、本日のモノトーンのキャラメイクをしながら、こっそり書いてたリクエスト短編を公開したいと思います。

三作目はあいあいさんのリクエスト、「クラウディオとシュンランのドライグでの日常場面」になりますー。
 
 
 蜃気楼閣ドライグは、幻の国。裏切りの使徒アルベルトによって建国された、楽園の海を漂う禁忌の王国として、人々の間で語り継がれている。事実、ドライグは海を移動する機巧仕掛けの城であるが、それを知るのは一部の異端研究者と、ドライグに住まう民のみだ。
 そんな蜃気楼閣を代々統治してきた「竜王」の血を引く男――クラウディオ・ドライグは、複雑に入り組んだ廊下の真ん中で途方に暮れていた。
 眼鏡の下の赤い瞳は、壁に走る金属の管を何とはなしに追いかけていたが、結局いくつもの管が絡み合っているところで無意味なことだと気づき、深々と溜め息をつく。
「しかし……あのお姫様はどこに隠れてしまったんだろうか」
 お姫様、というのは他でもない。海の底から発見された『棺』に納められていた少女、『歌姫』のことだ。過去の記憶を失い、当初は言葉も身体も不自由だったが、教育係を任ぜられたクラウディオも驚くほどの速度であらゆるものごとを吸収し、数ヶ月経過した今では自由に部屋から出歩き、多少拙いながらも自分の意志を言葉で伝える術を見につけていた。
 そのこと自体は喜ぶべきだ。喜ぶべき、なのだが。
 自由を手に入れた途端、『歌姫』はクラウディオの目を盗んで蜃気楼閣のあちこちを探検して回りはじめたのだ。ドライグは創世の時代に造られた機巧の要塞都市であり、極めて複雑な構造の建造物だ。蜃気楼閣に生まれ育ったクラウディオでも、その全容を理解しているわけではない。そのため、『歌姫』の捜索はいちいち困難を極める。
 今日も、クラウディオが調達してきた真っ白なドレスに着替えていたはずの『歌姫』が忽然と部屋から消え、クラウディオ他、『歌姫』の世話役たちとドライグの騎士たちは蜃気楼閣のあちこちを駆け回る羽目になっているのである。
 玉座の上で足を組む現竜王は「元気なことはいいことじゃないか」と愉快そうに笑ってみせるが、実際に探すこっちの身にもなってほしい、と思わずにはいられない。
「ガブリエッラも簡単に言ってくれるものだね、私ももう、若くないんだが……っと」
 金属の管を伝って廊下を右に折れると、廊下の先の扉の隙間から、白いレースが覗いていた。慌てて廊下を駆け抜けて扉を開けると、真っ白だったはずのドレスと微かに緑を帯びた白い髪を煤で汚した少女が、暗い部屋の真ん中で、クラウディオに背を向けて座っていた。
 少女――『歌姫』は、すぐにクラウディオの存在に気づくと、振り向いた。すみれ色の大きな瞳が、にっこりと笑みを模る。必死に行方を探していたクラウディオの気持ちなど、もちろん知らないままに。
「すごいです。とても大きいです」
 『歌姫』の前で、ごうん、ごうん、と音を立てるそれは、蜃気楼閣の機関部だった。無骨な機巧の塊でしかないそれを、『歌姫』はいとおしそうに見上げてみせる。
「胸の音が聞こえます。血を通わせる音。こうやって、このお城は生きてきたのですね。長い、長い間」
「ああ、そうだね」
 クラウディオも、つられて微笑んでしまう。
 この少女の感覚は、今までクラウディオが出会ってきた誰とも違っていた。
 『棺』に封じられる前に、彼女がどのような景色を見てきたのか、クラウディオは知らない。彼女自身も忘れてしまっていたから。それでも、彼女の目に映る世界は、きっとクラウディオのそれとは違うものなのだろう。今この瞬間、同じものを見ていたとしても。
 紫の瞳に好奇の輝きを宿した少女の頬についた煤を、指先で拭って。
「しかし……これじゃあ、折角の綺麗な格好が台無しじゃないか」
「この服は動きづらいです。他のがいいです」
「わかったわかった、次に調達するときには考えておくよ」
 不服そうにぷう、と頬を膨らませる『歌姫』の手を取って。
「さあ、行こうか、シュンラン」
 クラウディオは、笑顔でその名を呼んだ。

 
================
 
クラウディオは本編には全く出てきてませんが、
やっとこさサイト掲載分でも名前が確認できるようになりましたので、
このタイミングで掲載いたしました。
(実はこれが一番最初に書けてたリクエスト分だったりします……)
シュンランは見た目と喋り方こそああですが、やってることはただの悪ガキですよね……
気まますぎて、何かいろいろぶっ飛んでるのはいつものことです。
というわけで、あいあいさん、リクエストありがとうございましたー!
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2012/09/09 01:12 | 小説断片

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