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2024/04/19 19:45 |
何処までも、物語は続く。
「ただいまー」
 そう言って当たり前のように客間に入ってきた金髪の男の姿を見て、台所からいっぱいの料理が載ったお盆を運んでいたアサノがぱっと顔を輝かせた。
「あっ、コバヤシさん!」
「タツミくん、おっそーい」
 台所で料理を作っていたアスカも、その声に気づいて顔を出し、年甲斐もなく唇を尖らせてみせる。それを見たタツミは「はは」とオッド・アイを細めて苦笑する。
「悪ぃ悪ぃ、どこも混んでてな。アサノは相当久しぶりかも」
「お久しぶりっす。地球一周武者修行は終わったんすか?」
「一周はしてねえよ!」
 タツミは思わず全力でツッコミを入れてみせる。ここ二年ほど海外にいたのは確かだが、そんなおかしな冒険はしていないはずだ……多分。タツミのことなので、実際のところは相当怪しいものではある。
「ま、そろそろ落ち着いて店立てる準備しなきゃなんねえんだが……っと、手伝うか?」
 コートを脱ぎ、腕まくりをするタツミに、アスカは「頼もしいなあ」と笑う。
「それじゃあ頼むよ、未来の料理人」
「はいよ」
 タツミはアスカと一緒に台所に入っていく。すると、台所からは「タツミ兄だー」「地球一周してきた?」「だからしてねえよ!」「ペンギン見てきた?」「見てねえよ! 何で料理修行で南極なんだよ!」というアキヤ家の娘たちとの他愛のない会話が聞こえてきて、思わず笑ってしまうアサノ。
 料理が全くできないアサノは、せめてもの手伝いとして大きなテーブルの上にたくさんの皿を並べていく。
 タツミがプロを目指すほどの料理人であることは周知の事実だが、アスカもああ見えてなかなかの料理人だ。新年を迎えるための和の料理が綺麗に盛り付けられている。
 結婚するなら料理ができる男の人がいいなあ、と真面目に考えてみるアサノである。アサノの周囲の男連中は大体その基準はクリアしていたりするのだが。
 あわただしくも楽しく準備をしていると、また扉が開き、新たな来客があった。
「あら、お疲れさま、アサノ」
「トートさん、フカザワさん。お仕事終わったんすか?」
「ああ、何とか外で年は越さずに済んだよ。それにしても豪華だな」
 フカザワがテーブルの上に用意された食事を見て少しだけ驚いた表情をする。別にアサノが作ったわけでもないのだが、自然と胸を張りたくなる。
「アスカさんが作ってるんすよ。今、コバヤシさんも来て、向こうで料理してるっすよ」
「ふうん、それならあたしも行ってこようかしら」
「来いよトート、正直手が足りねえー」
 トートの声を聞きつけたのか、タツミの声が聞こえてきて、アサノとトートはお互い目を見合わせて肩を竦めた。そうして、台所に消えていくトートの背中を見ながら、アサノはふと首を傾げてフカザワに問いかける。
「そういえば、ハエバルさんは一緒じゃないんすか?」
「僕はここにいるんだけどー」
「はわっ」
 声に驚いてそちらを見れば、ハエバルがソファに深々と腰掛けて足を揺らしていた。いつの間に、という目をするアサノだが、おそらく背の低いハエバルのことだから、フカザワの影に隠れて見えなかったに違いない。
 これで、探偵事務所の面子は全員集合ということになる、が……
「それより、シズカさんは何処にいるの? あのオッサンの声は台所からするのにさあ」
 ハエバルが『あのオッサン』と言った場合、必ずアスカのことを指すのは探偵事務所の常識である。アサノは「そういや、さっきまでいたんすけど」とこの家の主、アキヤ・シズカの姿を探す。
 すると。
「私はここにいるんだけどなー」
『はわっ』
 今度はアサノとハエバルの声が唱和した。
 驚くのも無理はない、シズカはいつの間にかソファに座るハエバルの頭の上で腕を組んでいたのだから。
 神出鬼没の『チェシャー・キャット』は伊達ではない。
「ど、どどどどこに行ってたんですか、シズカさんっ」
 ハエバルが甲高い声を上げると、シズカは化け猫のような笑みを深めて言った。
「隠してあったお酒を持ってきたんだよ。後で皆で飲もうじゃないか」
「わ、日本酒っすね! 私、日本酒好きなんすよねー」
「アサノちゃんって、意外と飲兵衛だよね。僕も好きだけどさ」
「……飲みすぎるなよ。連れて帰るのいつも俺なんだからな」
 探偵事務所随一の酒の強さを誇るフカザワが、ちょっとげっそりとした表情で言った。実のところ、いつぞやか事務所で飲んだ時に、とんでもないことになったことがあり、フカザワはそこで相当懲りたらしい。
 が。
「大丈夫だよ、フカザワは心配性だなっ」
「大丈夫っすよ、限度はわきまえたっす!」
 全然根拠のない二人の言葉を聞かされ、再び肩を落とすことになった。
 その時、台所からタツミのよく通るだみ声が響いた。
「全員揃ったかー? 蕎麦作っぞ!」
「年越し蕎麦来た!」
「エビ天もつけてね!」
「あ、私は人参の天ぷらー」
「はいはい、タツミくんが困るから順番だぞ」
「おかずも多いしデザートもあるから、ほどほどにするのよー」
 はーい、と声を唱和させるアキヤ家の娘たち。
「さ、私たちも遠慮なくいただくとしようか?」
 シズカの言葉に、アサノたちもまた笑顔で頷いた。
 今年もまた皆で食卓を囲めることを感謝しながら……少しだけ現実離れした世界に足を踏み入れている彼らにも、新たな年が訪れようとしていた。


=====

2009年12月31日、アキヤ邸。
事務所のハエバルは初めて書いた気がする!(笑)
「夢の終わりに見上げた空と」の南風原岬と同一人物ですよ。
探偵事務所の面子はシズカ、トート、フカザワ、ハエバル、アサノです。
トートの実態はいまだ不明なわけですがっ。
こいつらは、とても仲良しさんですよーという話でした。
ちなみにアキヤ邸と事務所は別ですからね。一応補足までに。

大体、青波の家も毎度年越しはこんな感じなのですよ。
来ているのは青波の友人というよりは両親の友人ですがっ。
(逆に「親戚で集まる」という概念が薄い青波家)
というわけで宴会に戻ります。
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2009/12/31 21:17 | Comments(0) | 小説断片

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