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2024/04/19 14:19 |
#リプくれた方のお話の冒頭を自分の文章で書く 楠園冬樺さま『SIKI』
ツイッターで回っていた
#リプくれた方のお話の冒頭を自分の文章で書く
に関してリプいただきましたので果敢にも玉砕してきました。

楠園冬樺さまの『SIKI』
(http://wit.bitter.jp/rk/work/ss/siki_x.html)
冒頭です。

===========

 その人の名前を、そっと、呼び掛けて。
 目を閉じて、薄く口を開く。
 一つ、呼吸の後に触れるのは、人の温度をした、湿った感触。今まさに過ぎ去ろうとしている夏の空気に似た、いつものキス。
 ちりん、と。軒先の風鈴の音色が、蝉の合唱と火照る意識の中でいやに涼やかに響くと、ぼくの頭の中には、波紋のように、何度も繰り返してきた思考が浮かび上がる。
 
 ぼくはどうしてこの人が好きなんだろう。
 どうしてこの人はぼくを好きなんだろう。
 
 幽かな床板の鳴る音に、薄く目を開ける。夜の闇に閉ざされた中で、常夜灯だけがぼんやりと部屋の輪郭を浮かび上がらせている。
 きしり、きしり、という音色に、床を踏む素足の白さを、すらりと伸びた足首の細さを、思う。
 ――帰ってきたんだ。
 ほっと息をついて、薄闇の中でじっと目を凝らしていると、すうと障子が開いた。真っ先に黒橡の絽の着物が目に入り、次いで裾から覗く、モノトーンの中に鮮やかな牡丹色のペディキュアのつま先が見えた。
「リョウ、もう眠った?」
 降ってくるのは上機嫌な声。ぼくは「まだ起きてるよ」と言って頭を起こす。
「お帰り、シキ」
 身を起こしたぼくの頬に、シキの指先がそっと触れる。
「ただいま」
 その指の冷たさに、ほとんど反射的に首をすくめながら、シキから漂ってくる香りに気付く。お酒の匂いに混じる、微かな、それこそ「気配」とも言うべき香り。けれど、ぼくの知らない香りでもあって。
「飲んできたんだ」
「少しだけね」
「新しいお客さん? 恋人の方?」
「新しい恋人よ。よくわかったわね」
「だって、知らない香りがするから」
 シキはぼくの言葉にくすりと笑う。
「敏感ね、リョウは」
 そうかな、と。思いながら、シキを見つめる。ぼくとは似ても似つかない、人形のように整った顔で、完璧な笑顔を浮かべるシキは、いつ見ても、きれいだと思う。胸が、少しだけ痛くなるくらいには。
 シキ。漢字一文字で、色。フルネームは桜川色子。
 画商桜川の柱であり――ぼくの、母親だ。
 母親で、たった一人の家族だけど、ぼくは彼女をシキと呼ぶ。シキが、そう望むから。
 そして、シキには、たくさんの恋人がいる。
 恋人。ぼくはシキのことが全部わかるわけじゃないけど、シキが恋人を作るのは、きっと、さみしいからだと思っている。だって、この家は二人では広すぎるから。
 さみしい。そう、ぼくだって、感じているから。

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書いてる途中に「これホリィじゃね?」って雑念に悩まされたのは内緒である。
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2015/06/14 23:17 | 小説断片

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