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Twitter300字SS「声」

 目が覚めたら名前も出自も何一つ思い出せない上に、変な場所に軟禁されていて。脱出のためには、施設に散らばる記憶を集める必要があるという。
 理不尽。不可解。状況を表す言葉には事欠かない。記憶を集める、という話だって、真実かわかったものじゃない。
 だけど。
『ユークリッド?』
 頭上から降る、僕の「仮名」を呼ぶ姿なき声。
『どうした、調子が悪いのか?』
 僕を導く天からの声。温もりと、胸の痛みを呼ぶ、声。
 あなたの声を知っているはずなのに、思い出せない。思い出せないということが、何よりも僕の胸を締め付ける。
 だから、僕は前に進む。胸に渦巻く思いの意味を知るために、歪む顔を笑みに変えて。
「いえ、大丈夫です――ダリアさん」

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Title: あなたの声が思い出せない



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2016/08/06 22:44 | 小説断片
Twitter300字SS「風」

 ――ブラン・リーワード。
 
 かつて名前の無い影だった友達は、そう名乗った。
「俄然名前らしくなったね」
「だろ?」
 友達は、歯を見せて笑った。俺より十以上は年上なのに、時々こうして子供の顔をする。
「リーワードって珍しい響きだけど、何か意味あるの?」
 すると、友達はついと氷色の目を空に向ける。見上げれば、真っ白な雲が、風に流されてゆくところだった。
「風の行く先」
 ぽつり、風にかき消されかけたしゃがれ声。
 それが答えだと気づいたのは、数拍の後。
「失われた言葉だ。風が俺の背中を押してくれるように、ってな」
 
 そう言った友達は、きっと、この丘を吹く風の行く先にいる。
 二度と会えないってわかった今、確かにそう感じているんだ。
 
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Title: Leeward



2016/04/02 21:00 | 小説断片
Twitter300字SS「光」

 今日も秘策――待盾署刑事課神秘対策係は暇である。

 そんなわけで盗犯係の事務作業を手伝う八束だったが、どうしても目の前に座る相棒、南雲が気になって仕方ない。
 見事なスキンヘッドに凶悪な目つき。警察官よりその筋の人を思わせる面構えの南雲は、普段から消えない眉間の皺を更に深め、何故か懐中電灯をあちこちに向け、手鏡と睨めっこしていた。
「さっきから何してるんですか、南雲さん」
「頭が上手く輝くライティングを考えてる」
「は?」
「毎日剃る手間がかかる割に変化が無いから、せめて光り方のバリエーションが欲しいなと」
「目にした人が反応に困るのでやめましょう。わたしも現在進行形で困ってます」

 どこまでも、秘策は暇である。

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Title: 今日も南雲は仕事をしない


2016/02/06 21:00 | 小説断片
Twitter300字SS「写真」

 写真帖に、一枚、また一枚と写真が増えていく。
 最初は輪郭すら定かでなかった風景が、人の姿が、徐々に焦点を結んでいく。撮影の上達を感じると同時に、四角い世界に僕らの「足跡」が残されているのだと理解する。
 鈴蘭は、写真帖を繰る僕の横で、獲物の急所を見据える射手のごとく、分厚い壁に囲まれた塔に狙いを定めていた。
「ねえ、ホリィ」
 ホリィ。僕の名前。歌うような声の余韻を確かめてから、顔をあげる。
「もうすぐ、お別れだね」
 かしゃり。鼓膜を震わせる音色。
 きっと、現像された写真に写るのは、僕らの旅の終着点。
 
 その頃の僕は十四歳で、《鳥の塔》の兵隊で、ある《種子》を運ぶ旅の途中で――その旅も、もうすぐ終わろうとしていた。
 
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Title: モノトーンの足跡
 
 
 
 
 そして、僕の手には、写真だけが残された。
 
 僕の世界は《鳥の塔》と、それを取り巻く隔壁の内側のごく一部だけ。
 だから、この四角く切り取られた風景は、写された人々は、どれも僕の知らないもの。
 目にすることさえなければ、知らないまま生きていくはずだった、もの。
 
「意地悪ですね、ホリィ」
 
 ああ、本当に意地悪だ。
 ホリィ。僕のたった一人の片割れは、僕がわがままだってことを、誰よりもよく知っていたはずなのに。
 こんな、記憶の切れ端だけでは足りない。
 僕は、知りたいんだ、ホリィ。君が旅した足跡を。君が触れた人のことを。
 この、四角い世界の、外側を。
 
 黒い、重たい写真機を手に、塔を抜け出す。君の見た世界に、少しでも近づくために。
 
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Title: 残されたものたち
 


2015/11/07 21:13 | 小説断片
Twitter300字SS「お盆」

 誕生日パーティに、憧れている。
 友達をいっぱい招待して、おいしいご飯にかわいいケーキ。年の数だけのろうそくを吹き消す瞬間は、主役になれる。そんな、当たり前の誕生日パーティ。
 だけど、そのささやかな夢が叶ったことはない。
 みんな、みーんな、「その日は田舎に帰るからごめんね」って言う。家に残ってる子なんて、わたしくらいだ。
「まあまあ、そんなにむくれるな」
 と朗らかに笑う白髪のおじいちゃん。
「おや、大きくなったねえ。お誕生日おめでとう」
 と頭をなでる、いつまでも若いままのひいおばあちゃん。
 いつもは会えない人たちが帰ってきて、わたしの誕生日を祝ってくれる。それが、嫌いってわけじゃあ、ないんだけど。

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Title: わたしの誕生日



2015/08/01 21:00 | 小説断片

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