写真帖に、一枚、また一枚と写真が増えていく。
最初は輪郭すら定かでなかった風景が、人の姿が、徐々に焦点を結んでいく。撮影の上達を感じると同時に、四角い世界に僕らの「足跡」が残されているのだと理解する。
鈴蘭は、写真帖を繰る僕の横で、獲物の急所を見据える射手のごとく、分厚い壁に囲まれた塔に狙いを定めていた。
「ねえ、ホリィ」
ホリィ。僕の名前。歌うような声の余韻を確かめてから、顔をあげる。
「もうすぐ、お別れだね」
かしゃり。鼓膜を震わせる音色。
きっと、現像された写真に写るのは、僕らの旅の終着点。
その頃の僕は十四歳で、《鳥の塔》の兵隊で、ある《種子》を運ぶ旅の途中で――その旅も、もうすぐ終わろうとしていた。
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Title: モノトーンの足跡
そして、僕の手には、写真だけが残された。
僕の世界は《鳥の塔》と、それを取り巻く隔壁の内側のごく一部だけ。
だから、この四角く切り取られた風景は、写された人々は、どれも僕の知らないもの。
目にすることさえなければ、知らないまま生きていくはずだった、もの。
「意地悪ですね、ホリィ」
ああ、本当に意地悪だ。
ホリィ。僕のたった一人の片割れは、僕がわがままだってことを、誰よりもよく知っていたはずなのに。
こんな、記憶の切れ端だけでは足りない。
僕は、知りたいんだ、ホリィ。君が旅した足跡を。君が触れた人のことを。
この、四角い世界の、外側を。
黒い、重たい写真機を手に、塔を抜け出す。君の見た世界に、少しでも近づくために。
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Title: 残されたものたち
【蛇足】
・『アイレクスの絵空事』シリーズより二作。
・ホリィと鈴蘭は、《鳥の塔》に残されたホリィの双子の弟、ヒースへの「おみやげ」として写真を撮っている……という前提です。
・この辺りまだサイトに追加してませんでしたねすみません。
・「モノトーンの足跡」:ホリィと鈴蘭。物語の終わりに近い場所のお話。
・「残されたものたち」:ヒース。「モノトーンの足跡」より後のお話。
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