目が覚めたら名前も出自も何一つ思い出せない上に、変な場所に軟禁されていて。脱出のためには、施設に散らばる記憶を集める必要があるという。
理不尽。不可解。状況を表す言葉には事欠かない。記憶を集める、という話だって、真実かわかったものじゃない。
だけど。
『ユークリッド?』
頭上から降る、僕の「仮名」を呼ぶ姿なき声。
『どうした、調子が悪いのか?』
僕を導く天からの声。温もりと、胸の痛みを呼ぶ、声。
あなたの声を知っているはずなのに、思い出せない。思い出せないということが、何よりも僕の胸を締め付ける。
だから、僕は前に進む。胸に渦巻く思いの意味を知るために、歪む顔を笑みに変えて。
「いえ、大丈夫です――ダリアさん」
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Title: あなたの声が思い出せない
【蛇足】
・今水面下で執筆中の『XXXの仮想化輪廻』についてのお話です。
・記憶喪失の青年ユークリッドと、天の声ダリアのやり取りを300字で切り取ってみました。
・仮想化輪廻完成版は多分……秋には……連載開始したい……感じです……。
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