「願いを叶えるメカニズム?」
ナグモは「そ」と左手で帽子の鍔を持ち上げて。
「リッカちゃんが契約してる『鳳蝶』は人の願いを叶えるっていうけど、どうやって叶えるのかなって」
「『願いを叶える』というのは正確じゃないわ。『鳳蝶』は境界を越える力を持ってる。契約者を、他の世界に連れて行くの」
「それがどうして『願いを叶える』って話になるんだ?」
「ここでない場所に『願いが叶った世界』があるかもしれないでしょう? 私が、願いを叶えたように」
「パラレルワールド、か。俺の願いが叶った世界も、どっかにあるんだろうな」
口の端を歪める。右手に握った刀の切っ先を、リッカの喉に向けたまま。
「ね、『鳳蝶』、渡してよ」
========================
Title: 或る分岐にて
ナグモは「そ」と左手で帽子の鍔を持ち上げて。
「リッカちゃんが契約してる『鳳蝶』は人の願いを叶えるっていうけど、どうやって叶えるのかなって」
「『願いを叶える』というのは正確じゃないわ。『鳳蝶』は境界を越える力を持ってる。契約者を、他の世界に連れて行くの」
「それがどうして『願いを叶える』って話になるんだ?」
「ここでない場所に『願いが叶った世界』があるかもしれないでしょう? 私が、願いを叶えたように」
「パラレルワールド、か。俺の願いが叶った世界も、どっかにあるんだろうな」
口の端を歪める。右手に握った刀の切っ先を、リッカの喉に向けたまま。
「ね、『鳳蝶』、渡してよ」
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Title: 或る分岐にて
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ツイッターで回っていた
#リプくれた方のお話の冒頭を自分の文章で書く
に関してリプいただきましたので果敢にも玉砕してきました。
楠園冬樺さまの『SIKI』
(http://wit.bitter.jp/rk/work/ss/siki_x.html)
冒頭です。
===========
その人の名前を、そっと、呼び掛けて。
目を閉じて、薄く口を開く。
一つ、呼吸の後に触れるのは、人の温度をした、湿った感触。今まさに過ぎ去ろうとしている夏の空気に似た、いつものキス。
ちりん、と。軒先の風鈴の音色が、蝉の合唱と火照る意識の中でいやに涼やかに響くと、ぼくの頭の中には、波紋のように、何度も繰り返してきた思考が浮かび上がる。
ぼくはどうしてこの人が好きなんだろう。
どうしてこの人はぼくを好きなんだろう。
幽かな床板の鳴る音に、薄く目を開ける。夜の闇に閉ざされた中で、常夜灯だけがぼんやりと部屋の輪郭を浮かび上がらせている。
きしり、きしり、という音色に、床を踏む素足の白さを、すらりと伸びた足首の細さを、思う。
――帰ってきたんだ。
ほっと息をついて、薄闇の中でじっと目を凝らしていると、すうと障子が開いた。真っ先に黒橡の絽の着物が目に入り、次いで裾から覗く、モノトーンの中に鮮やかな牡丹色のペディキュアのつま先が見えた。
「リョウ、もう眠った?」
降ってくるのは上機嫌な声。ぼくは「まだ起きてるよ」と言って頭を起こす。
「お帰り、シキ」
身を起こしたぼくの頬に、シキの指先がそっと触れる。
「ただいま」
その指の冷たさに、ほとんど反射的に首をすくめながら、シキから漂ってくる香りに気付く。お酒の匂いに混じる、微かな、それこそ「気配」とも言うべき香り。けれど、ぼくの知らない香りでもあって。
「飲んできたんだ」
「少しだけね」
「新しいお客さん? 恋人の方?」
「新しい恋人よ。よくわかったわね」
「だって、知らない香りがするから」
シキはぼくの言葉にくすりと笑う。
「敏感ね、リョウは」
そうかな、と。思いながら、シキを見つめる。ぼくとは似ても似つかない、人形のように整った顔で、完璧な笑顔を浮かべるシキは、いつ見ても、きれいだと思う。胸が、少しだけ痛くなるくらいには。
シキ。漢字一文字で、色。フルネームは桜川色子。
画商桜川の柱であり――ぼくの、母親だ。
母親で、たった一人の家族だけど、ぼくは彼女をシキと呼ぶ。シキが、そう望むから。
そして、シキには、たくさんの恋人がいる。
恋人。ぼくはシキのことが全部わかるわけじゃないけど、シキが恋人を作るのは、きっと、さみしいからだと思っている。だって、この家は二人では広すぎるから。
さみしい。そう、ぼくだって、感じているから。
===========
書いてる途中に「これホリィじゃね?」って雑念に悩まされたのは内緒である。
#リプくれた方のお話の冒頭を自分の文章で書く
に関してリプいただきましたので果敢にも玉砕してきました。
楠園冬樺さまの『SIKI』
(http://wit.bitter.jp/rk/work/ss/siki_x.html)
冒頭です。
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その人の名前を、そっと、呼び掛けて。
目を閉じて、薄く口を開く。
一つ、呼吸の後に触れるのは、人の温度をした、湿った感触。今まさに過ぎ去ろうとしている夏の空気に似た、いつものキス。
ちりん、と。軒先の風鈴の音色が、蝉の合唱と火照る意識の中でいやに涼やかに響くと、ぼくの頭の中には、波紋のように、何度も繰り返してきた思考が浮かび上がる。
ぼくはどうしてこの人が好きなんだろう。
どうしてこの人はぼくを好きなんだろう。
幽かな床板の鳴る音に、薄く目を開ける。夜の闇に閉ざされた中で、常夜灯だけがぼんやりと部屋の輪郭を浮かび上がらせている。
きしり、きしり、という音色に、床を踏む素足の白さを、すらりと伸びた足首の細さを、思う。
――帰ってきたんだ。
ほっと息をついて、薄闇の中でじっと目を凝らしていると、すうと障子が開いた。真っ先に黒橡の絽の着物が目に入り、次いで裾から覗く、モノトーンの中に鮮やかな牡丹色のペディキュアのつま先が見えた。
「リョウ、もう眠った?」
降ってくるのは上機嫌な声。ぼくは「まだ起きてるよ」と言って頭を起こす。
「お帰り、シキ」
身を起こしたぼくの頬に、シキの指先がそっと触れる。
「ただいま」
その指の冷たさに、ほとんど反射的に首をすくめながら、シキから漂ってくる香りに気付く。お酒の匂いに混じる、微かな、それこそ「気配」とも言うべき香り。けれど、ぼくの知らない香りでもあって。
「飲んできたんだ」
「少しだけね」
「新しいお客さん? 恋人の方?」
「新しい恋人よ。よくわかったわね」
「だって、知らない香りがするから」
シキはぼくの言葉にくすりと笑う。
「敏感ね、リョウは」
そうかな、と。思いながら、シキを見つめる。ぼくとは似ても似つかない、人形のように整った顔で、完璧な笑顔を浮かべるシキは、いつ見ても、きれいだと思う。胸が、少しだけ痛くなるくらいには。
シキ。漢字一文字で、色。フルネームは桜川色子。
画商桜川の柱であり――ぼくの、母親だ。
母親で、たった一人の家族だけど、ぼくは彼女をシキと呼ぶ。シキが、そう望むから。
そして、シキには、たくさんの恋人がいる。
恋人。ぼくはシキのことが全部わかるわけじゃないけど、シキが恋人を作るのは、きっと、さみしいからだと思っている。だって、この家は二人では広すぎるから。
さみしい。そう、ぼくだって、感じているから。
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書いてる途中に「これホリィじゃね?」って雑念に悩まされたのは内緒である。
ずっと放置していたので今日くらいは連続で更新。
『ゆめうつつ演義』に
「ワールドエンド・ブラインド断章」を追加しました。
元々は雲上回廊さんの「ゆる本Vol.20」に収録していただいたものです。
断章という通りちょっと中途半端な話ではあるのですが。
「ものくろ対話篇」の裏というか、むしろこっちが表というか。
シュウ、と呼ばれている青年の災難についてのお話です。
いつかこれもフルで書きたいところですが、
いつになることやらであります……。
『ゆめうつつ演義』に
「ワールドエンド・ブラインド断章」を追加しました。
元々は雲上回廊さんの「ゆる本Vol.20」に収録していただいたものです。
断章という通りちょっと中途半端な話ではあるのですが。
「ものくろ対話篇」の裏というか、むしろこっちが表というか。
シュウ、と呼ばれている青年の災難についてのお話です。
いつかこれもフルで書きたいところですが、
いつになることやらであります……。
久しく更新していなかった『レベンタートの妖精使い』ですが、
海の章が虫食い状態であったことを思い出したので、
改装ついでに全話追加しておきました!
レベンタートは一応「雪の章」っていうのもあるんですが、
手元のファイルを信じるなら二話くらい書いて力尽きてますね……。
番外編として後ほどちまちま追加するかもです。
サイト改装まで更新しないって決めてたので、
これからはもうちょっと更新速度も上げられると思います。
今までずっと沈黙していてすみませんでした……!
海の章が虫食い状態であったことを思い出したので、
改装ついでに全話追加しておきました!
レベンタートは一応「雪の章」っていうのもあるんですが、
手元のファイルを信じるなら二話くらい書いて力尽きてますね……。
番外編として後ほどちまちま追加するかもです。
サイト改装まで更新しないって決めてたので、
これからはもうちょっと更新速度も上げられると思います。
今までずっと沈黙していてすみませんでした……!