『世界再生の書物と一つの楽園』
著者:秋山真琴 さま
サークル:雲上回廊
ジャンル:遠未来学園異能SFファンタジー
著者の秋山真琴さんには色々とお世話になっているのですが(過去ログ参照)、実際に秋山さんのお話を拝読するのはこれが初めてであることに今更気づきました。
青波、地味にアンソロジーは苦手で、単独のものばかり買っているもので……。
遠い未来、人間が量子化を済ませ、荒廃した地上を見捨てて天上のコンピュータ上に生きている、そんな時代のお話。
地上のネットワーク上に存在する、六つの学園からなる仮想空間の「楽園」には、天上から己の情報を伏せて学園生活を送る「学生」たちが生きている。
そんな中、唯一、自分についての情報を完全に欠落した、つまりこの世界にはありえない「記憶喪失」の少年が現れたことから物語が始まる……。
上記のような舞台設定を聞いた瞬間に、胸を撃ち抜かれた気分でした。
仮想空間を舞台にした物語が好きで好きでたまらないSFファンタジー屋には、ドツボな設定であります。
また、表紙の空の青さ、そこに立つ少年少女の姿に止めを刺されて、速攻で購入を決定しました。
空の青さには、弱いのです。それが仮に、かりそめのものであったとしても。むしろ、かりそめである方が燃えるというものです。
そして、実際に本を紐解いてみれば、本いっぱいに広がる「学園」の情景と、学園に生きる個性的な生徒たちのやり取りから目が離せなくなります。
ジャンルの欄にもあるとおり、この物語は、上記のような設定を意識せずとも、夢中になって楽しめる異能ファンタジィバトルものなのです。読者である私たちは、難しく考えることなく、記憶喪失の主人公と共にすうっと、学園内で繰り広げられるとある「戦い」の只中に入り込んでいくことになります。
「クラス対抗レクリエーション」と銘打たれたそれは、とある一つの「書物」を、各クラスの代表者たちが己の能力を駆使して奪い合う、というものです。その「書物」を手にした者は、己の願いを一つだけ叶えられるのだ、といって。
この彼らの振るう「能力」である「ギフト」が、能力バトルもの大好きな自分はわくわくして仕方ありません。
特にA組代表のメイドを率いたお嬢様、工藤十和子さんの能力がものすごく好みなのですが、語ってしまうと丸々ネタバレになってしまいますのでここでは割愛。
そんな戦いの中、主人公は学園長の娘……という設定を持つ少女、ディラン志弦に連れられて、世界の真実を教えられながら少しずつ、少しずつ自分がいる場所のことを考えていくことになります。
その間にも、「レク」と称される戦いは進んでいくわけですが、その結末は是非手にとって確かめていただきたいと思います。
この物語の構造の面白いところは、描かれる世界が「仮想」であり、しかし彼らにとっての「現実」というところだと思います。
仮想の学園の中に生きる学生たちは、それぞれが、本来の立場とは別の「何か」を演じているのだと、主人公は最初に聞かされることになります。
しかし、彼らはある意味では典型的な「キャラクター」でありながら、生きていくために戦い続けます。圧倒的な死の予感に全力で立ち向かいます。実のところ、この世界での死が直接の「死」ではないことも示唆されるのですが、それでも、彼らは確かに全力で生きているのです。
それは、ところどころで示される、気まぐれに生み出され緩慢に生きるだけの生に飽いた存在……つまり、彼らの本来在るべき姿とは対照的に、激しくも鮮やかな「青春」の香りがするのです。
果たして、この世界の構造が自分に何処まで飲みこめているかはわかりません。
まだまだ、語られていない部分も多く、末尾に付された世界の年表を見ても私の理解など及ぶはずも無く。
最後まで駆け抜けた今もまだ頭の中にぐるぐると、色々な思いが駆け巡っています。
ただ、最後の最後に、一枚の挿絵と共に描かれた「五月」。
その空の色に、何となく、爽やかな香りと一抹の希望を感じる。
そんな、妙に爽やかな後味を残すお話なのでありました。
著者:秋山真琴 さま
サークル:雲上回廊
ジャンル:遠未来学園異能SFファンタジー
著者の秋山真琴さんには色々とお世話になっているのですが(過去ログ参照)、実際に秋山さんのお話を拝読するのはこれが初めてであることに今更気づきました。
青波、地味にアンソロジーは苦手で、単独のものばかり買っているもので……。
遠い未来、人間が量子化を済ませ、荒廃した地上を見捨てて天上のコンピュータ上に生きている、そんな時代のお話。
地上のネットワーク上に存在する、六つの学園からなる仮想空間の「楽園」には、天上から己の情報を伏せて学園生活を送る「学生」たちが生きている。
そんな中、唯一、自分についての情報を完全に欠落した、つまりこの世界にはありえない「記憶喪失」の少年が現れたことから物語が始まる……。
上記のような舞台設定を聞いた瞬間に、胸を撃ち抜かれた気分でした。
仮想空間を舞台にした物語が好きで好きでたまらないSFファンタジー屋には、ドツボな設定であります。
また、表紙の空の青さ、そこに立つ少年少女の姿に止めを刺されて、速攻で購入を決定しました。
空の青さには、弱いのです。それが仮に、かりそめのものであったとしても。むしろ、かりそめである方が燃えるというものです。
そして、実際に本を紐解いてみれば、本いっぱいに広がる「学園」の情景と、学園に生きる個性的な生徒たちのやり取りから目が離せなくなります。
ジャンルの欄にもあるとおり、この物語は、上記のような設定を意識せずとも、夢中になって楽しめる異能ファンタジィバトルものなのです。読者である私たちは、難しく考えることなく、記憶喪失の主人公と共にすうっと、学園内で繰り広げられるとある「戦い」の只中に入り込んでいくことになります。
「クラス対抗レクリエーション」と銘打たれたそれは、とある一つの「書物」を、各クラスの代表者たちが己の能力を駆使して奪い合う、というものです。その「書物」を手にした者は、己の願いを一つだけ叶えられるのだ、といって。
この彼らの振るう「能力」である「ギフト」が、能力バトルもの大好きな自分はわくわくして仕方ありません。
特にA組代表のメイドを率いたお嬢様、工藤十和子さんの能力がものすごく好みなのですが、語ってしまうと丸々ネタバレになってしまいますのでここでは割愛。
そんな戦いの中、主人公は学園長の娘……という設定を持つ少女、ディラン志弦に連れられて、世界の真実を教えられながら少しずつ、少しずつ自分がいる場所のことを考えていくことになります。
その間にも、「レク」と称される戦いは進んでいくわけですが、その結末は是非手にとって確かめていただきたいと思います。
この物語の構造の面白いところは、描かれる世界が「仮想」であり、しかし彼らにとっての「現実」というところだと思います。
仮想の学園の中に生きる学生たちは、それぞれが、本来の立場とは別の「何か」を演じているのだと、主人公は最初に聞かされることになります。
しかし、彼らはある意味では典型的な「キャラクター」でありながら、生きていくために戦い続けます。圧倒的な死の予感に全力で立ち向かいます。実のところ、この世界での死が直接の「死」ではないことも示唆されるのですが、それでも、彼らは確かに全力で生きているのです。
それは、ところどころで示される、気まぐれに生み出され緩慢に生きるだけの生に飽いた存在……つまり、彼らの本来在るべき姿とは対照的に、激しくも鮮やかな「青春」の香りがするのです。
果たして、この世界の構造が自分に何処まで飲みこめているかはわかりません。
まだまだ、語られていない部分も多く、末尾に付された世界の年表を見ても私の理解など及ぶはずも無く。
最後まで駆け抜けた今もまだ頭の中にぐるぐると、色々な思いが駆け巡っています。
ただ、最後の最後に、一枚の挿絵と共に描かれた「五月」。
その空の色に、何となく、爽やかな香りと一抹の希望を感じる。
そんな、妙に爽やかな後味を残すお話なのでありました。
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