『黒南風の八幡~隻眼の海賊と宣教師の秘宝~』
著者:唐橋史 さま
サークル:史文庫
ジャンル:本格海洋冒険譚
唐橋史さんといえば、文学フリマ界隈でも名高い「歴史作家」さんであるというのが青波の認識です。その歴史に対する造詣の深さと、創作に対する情熱をツイッター上でお見かけして、常々興味を抱いておりました。
ただ、歴史小説というとどうにもとっつきづらい印象が付きまとい、そもそも歴史に対する知識が浅すぎる自分が触れてよいものかと、ドキドキしながら遠目に見ていた次第であります。
しかし、この度何気なくこの作品のあらすじを見て、「こんなに面白そうなのに読まないのは嘘だ!」と思い、勇気を出して超文学フリマでの取り置きをお願いし(青波はどこまでもチキンである)、そして今に至ります。
まず、冒頭十ページほどを読ませていただいて、これは上手い、とただただ感嘆しました。
単純に歴史の知識を文中に盛り込むのではなく、それを「読ませる」かたち、読者を引き込むだけのかたちに落とし込む技術に唸らされます。
歴史・時代ものの一番の難しさは、「今はそこにないものを、どう読み手に伝えるか」だと思っているもので。
……実のところ、青波は江戸時代くらいの話を読むのがとても好きです。
こういう言い方は極めて乱暴なのは認識しておりますが、出てくる地名が一つもわからなくとも、出てくるものの形を何一つ知らなくても、ストーリーが面白いものはやっぱり面白いのです。
(もちろんその頃のことがわかった方が面白いのはわかるので、そろそろ真面目に調べるべきだなあ、と個人的には思っていますが、それはそれとして)
ただ、その「面白さ=ストーリーへの没入感」を得られるためには、まずは、物語の世界にどっぷりとつかれるだけの前提が必要になる、とも感じています。
その点、この本は極めて鮮やかな形で、「私の知らない世界」を目の前に描き出していました。
仮に読者の知識から離れた場所にあるものを描くにせよ、具体的にそれが「何」かに言葉を割くよりも、その空気感、手触り、匂い、そういうものをあますところなく表現することで、そこにあるものに、確かな「存在感」を示している、そんな気がしました。
この本に満ちた「生きた」気配が、物語の世界――十七世紀の海に問答無用で引きずり込んでくれました。
そして、ストーリーがまた、全編通してわくわくとときめきが止まらないエンターテインメントなのです。
小難しく考える必要なく、主人公である右近と燕による海の上の冒険を「次はどうなる!?」と一緒になって追いかけることができる、その快感。
めまぐるしく変わる状況に流されるだけでなく、行く先を見据えようとする右近の真っ直ぐな視線。敵とも味方ともいえない立ち位置で、どこまでも自由に海の上を駆けるトリックスター・「黒南風の八幡」燕の獣じみた力強さ。そして、圧倒的な力と薄ら寒い酷薄さをもちながらも、どこか人間らしさを滲ませてやまないアメルスフォールト。彼らが織り成す物語の波に、気づいたら夢中になっていました。
そこに、秘宝の謎や「片目八幡」の伝説も織り込まれて、テンポは軽快ながらも、世界の「厚み」を感じてぞくぞくしてきます。特にラストの「秘宝」の秘密が明かされる瞬間には、その冷厳な空気感と目の前に現れた「真実」にただただ圧倒されました。
そして、物語を彩る登場人物がまた、ことごとく魅力的で。特に青波は、燕に付き従う漁師にして海賊・儀助と後半に登場する鄭夫人のさりげないかっこよさにしびれました。特に後者は登場シーン数は少ないのですが、その潔さがとても美しいのです。
決して、人物についても、そう多くの言葉を割いているわけじゃないのです。それでも、そこに生きている人たちの姿は、読み手にどこまでも鮮烈な印象を植え付けてくれます。
とてもとりとめのない文章になってしまいましたが、手に汗握るアドベンチャーが好きならこの本はとても楽しめると思います。
歴史ものは堅苦しくて、なんて思ってる方にこそ是非オススメしたい、めくるめく冒険奇譚でした。
著者:唐橋史 さま
サークル:史文庫
ジャンル:本格海洋冒険譚
唐橋史さんといえば、文学フリマ界隈でも名高い「歴史作家」さんであるというのが青波の認識です。その歴史に対する造詣の深さと、創作に対する情熱をツイッター上でお見かけして、常々興味を抱いておりました。
ただ、歴史小説というとどうにもとっつきづらい印象が付きまとい、そもそも歴史に対する知識が浅すぎる自分が触れてよいものかと、ドキドキしながら遠目に見ていた次第であります。
しかし、この度何気なくこの作品のあらすじを見て、「こんなに面白そうなのに読まないのは嘘だ!」と思い、勇気を出して超文学フリマでの取り置きをお願いし(青波はどこまでもチキンである)、そして今に至ります。
まず、冒頭十ページほどを読ませていただいて、これは上手い、とただただ感嘆しました。
単純に歴史の知識を文中に盛り込むのではなく、それを「読ませる」かたち、読者を引き込むだけのかたちに落とし込む技術に唸らされます。
歴史・時代ものの一番の難しさは、「今はそこにないものを、どう読み手に伝えるか」だと思っているもので。
……実のところ、青波は江戸時代くらいの話を読むのがとても好きです。
こういう言い方は極めて乱暴なのは認識しておりますが、出てくる地名が一つもわからなくとも、出てくるものの形を何一つ知らなくても、ストーリーが面白いものはやっぱり面白いのです。
(もちろんその頃のことがわかった方が面白いのはわかるので、そろそろ真面目に調べるべきだなあ、と個人的には思っていますが、それはそれとして)
ただ、その「面白さ=ストーリーへの没入感」を得られるためには、まずは、物語の世界にどっぷりとつかれるだけの前提が必要になる、とも感じています。
その点、この本は極めて鮮やかな形で、「私の知らない世界」を目の前に描き出していました。
仮に読者の知識から離れた場所にあるものを描くにせよ、具体的にそれが「何」かに言葉を割くよりも、その空気感、手触り、匂い、そういうものをあますところなく表現することで、そこにあるものに、確かな「存在感」を示している、そんな気がしました。
この本に満ちた「生きた」気配が、物語の世界――十七世紀の海に問答無用で引きずり込んでくれました。
そして、ストーリーがまた、全編通してわくわくとときめきが止まらないエンターテインメントなのです。
小難しく考える必要なく、主人公である右近と燕による海の上の冒険を「次はどうなる!?」と一緒になって追いかけることができる、その快感。
めまぐるしく変わる状況に流されるだけでなく、行く先を見据えようとする右近の真っ直ぐな視線。敵とも味方ともいえない立ち位置で、どこまでも自由に海の上を駆けるトリックスター・「黒南風の八幡」燕の獣じみた力強さ。そして、圧倒的な力と薄ら寒い酷薄さをもちながらも、どこか人間らしさを滲ませてやまないアメルスフォールト。彼らが織り成す物語の波に、気づいたら夢中になっていました。
そこに、秘宝の謎や「片目八幡」の伝説も織り込まれて、テンポは軽快ながらも、世界の「厚み」を感じてぞくぞくしてきます。特にラストの「秘宝」の秘密が明かされる瞬間には、その冷厳な空気感と目の前に現れた「真実」にただただ圧倒されました。
そして、物語を彩る登場人物がまた、ことごとく魅力的で。特に青波は、燕に付き従う漁師にして海賊・儀助と後半に登場する鄭夫人のさりげないかっこよさにしびれました。特に後者は登場シーン数は少ないのですが、その潔さがとても美しいのです。
決して、人物についても、そう多くの言葉を割いているわけじゃないのです。それでも、そこに生きている人たちの姿は、読み手にどこまでも鮮烈な印象を植え付けてくれます。
とてもとりとめのない文章になってしまいましたが、手に汗握るアドベンチャーが好きならこの本はとても楽しめると思います。
歴史ものは堅苦しくて、なんて思ってる方にこそ是非オススメしたい、めくるめく冒険奇譚でした。
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『セフトバンク・ダディ』
著者:トオノキョウジ さま
サークル:クロヒス諸房
ジャンル:ハートフル・バトル・ホームコメディ
このお話との出会いは、「創作文芸見本誌会場 Happy Reading」に自作『君は虹を知らない』を登録した日に遡るんですが。
見ていただくとわかるのですが、『君は虹を知らない』を登録する直前に登録されていたのが、こちらの作品なのです(つまり君虹から見た「お隣さん」)。
そしてその「ある意味タイトル通り」のちょっと危ない表紙絵と、一体何がどうしてこうなってしまったんだ、というあらすじに惹かれておりまして。
そうしたら、超文学フリマでなんと、スペース配置までお隣さんになるという奇跡!
これはもう入手するしかない、と勢いこんでご挨拶したところ、なんとお近づきのしるしにと、一冊いただけてしまってあわわわわ。
本日、早速読ませていただこうとページを開き……そして、ぐいぐい引き込まれて、一気に読みきってしまいました。
うおおお睡眠時間返せええええええ(いつものこと)。
あらすじは、Happy Readingさんのところに書いてある内容である意味全てなのですが。
「金融機関からの現金強奪が合法化」してしまった、どこかの時代のお話。
(こうなってしまった理由がまたいかしていて、思わず腹を抱えて笑ってしまったのですが)
ちいさな信用金庫に勤める「窓口係兼第三砲撃手」という何だかとんでもない肩書のついたおねーちゃん・上武凛子と、やけに紳士的な強盗の『白糸家』(not『白戸家』)の大黒柱・ダディ(白い犬)が織り成すお話。
とんでもなく荒唐無稽で、しかし「でも、その『危うさ』はあるかもしれない」って思わせてしまうだけのものが積み込まれた設定ににやっとし、緊迫感溢れているのにどこかとぼけた登場人物たちの掛け合いに和みます。
なんというか、「ああ、こいつ面白黒人枠だ」っていう凛子の諦めたような納得っぷりが妙にツボりました……そしてその面白黒人枠がやたらハイスペックなのがまた。
そして、形こそ全然違うんだけれども、確かにそこに存在する「家族の絆」ってやつに、思わず胸が熱くなりました。
職人気質で何処までも不器用で。でも、とっても温かくて。そんな父親をきちんと理解して愛している凛子と、どこまでも優しくて強い「父親」であるダディと。その二人のやり取りが、本当に力強く響いてきます。
また、そんな前向きで真っ直ぐな凛子を支えてくれる、周りの人たちの強さがいいですね。
多分この「安心感」が、物語の面白さを裏打ちしてるんじゃないかなと思いました。
危うさや切迫感、は物語を彩る大切な要素だとは思うのですが。実際、相当危うい状態にまで追い込まれるんですが。でも、そうやってぐらぐらしている中でも、手をしっかり掴んでいてくれる「何か」があってこそ、夢中で楽しめるお話になっている、そんな気がしました。
設定やギミックは本当に、何度見ても荒唐無稽なんですけど。だからこそ、普遍的な「つながりの力」をはっきりと感じられて、どこまでも「この人たちに任せとけば絶対大丈夫!」っていう気持ちですかっと読める、上質なエンターテインメントに酔いしれました。
ダディ、本当にいい男や……!!
ちなみに、青波は個人的に境内のサルジジイが好きでした。
最初は単なる噛ませかと思ったんですが、最後までその認識は崩れないのですが(笑)。
でも、境内の生き様はとてもよい……!!
やっぱり、男たるものああでないとね! 大切なのは一対一の殴り合いだよね!
是非次にお会いしたときには『俺たちのザ・ソウ』と『ヲタ・ゼクスアリス』も是非入手したいところです。わくわく。
特に後者が青波好みな気がしてならない辺りが……
(「童貞のまま歳を経て大いなる力を手にした戦士『穢れ無き決闘者』唯田忠孝」っていうあらすじの一文が心を掴んで離さずにいます)
著者:トオノキョウジ さま
サークル:クロヒス諸房
ジャンル:ハートフル・バトル・ホームコメディ
このお話との出会いは、「創作文芸見本誌会場 Happy Reading」に自作『君は虹を知らない』を登録した日に遡るんですが。
見ていただくとわかるのですが、『君は虹を知らない』を登録する直前に登録されていたのが、こちらの作品なのです(つまり君虹から見た「お隣さん」)。
そしてその「ある意味タイトル通り」のちょっと危ない表紙絵と、一体何がどうしてこうなってしまったんだ、というあらすじに惹かれておりまして。
そうしたら、超文学フリマでなんと、スペース配置までお隣さんになるという奇跡!
これはもう入手するしかない、と勢いこんでご挨拶したところ、なんとお近づきのしるしにと、一冊いただけてしまってあわわわわ。
本日、早速読ませていただこうとページを開き……そして、ぐいぐい引き込まれて、一気に読みきってしまいました。
うおおお睡眠時間返せええええええ(いつものこと)。
あらすじは、Happy Readingさんのところに書いてある内容である意味全てなのですが。
「金融機関からの現金強奪が合法化」してしまった、どこかの時代のお話。
(こうなってしまった理由がまたいかしていて、思わず腹を抱えて笑ってしまったのですが)
ちいさな信用金庫に勤める「窓口係兼第三砲撃手」という何だかとんでもない肩書のついたおねーちゃん・上武凛子と、やけに紳士的な強盗の『白糸家』(not『白戸家』)の大黒柱・ダディ(白い犬)が織り成すお話。
とんでもなく荒唐無稽で、しかし「でも、その『危うさ』はあるかもしれない」って思わせてしまうだけのものが積み込まれた設定ににやっとし、緊迫感溢れているのにどこかとぼけた登場人物たちの掛け合いに和みます。
なんというか、「ああ、こいつ面白黒人枠だ」っていう凛子の諦めたような納得っぷりが妙にツボりました……そしてその面白黒人枠がやたらハイスペックなのがまた。
そして、形こそ全然違うんだけれども、確かにそこに存在する「家族の絆」ってやつに、思わず胸が熱くなりました。
職人気質で何処までも不器用で。でも、とっても温かくて。そんな父親をきちんと理解して愛している凛子と、どこまでも優しくて強い「父親」であるダディと。その二人のやり取りが、本当に力強く響いてきます。
また、そんな前向きで真っ直ぐな凛子を支えてくれる、周りの人たちの強さがいいですね。
多分この「安心感」が、物語の面白さを裏打ちしてるんじゃないかなと思いました。
危うさや切迫感、は物語を彩る大切な要素だとは思うのですが。実際、相当危うい状態にまで追い込まれるんですが。でも、そうやってぐらぐらしている中でも、手をしっかり掴んでいてくれる「何か」があってこそ、夢中で楽しめるお話になっている、そんな気がしました。
設定やギミックは本当に、何度見ても荒唐無稽なんですけど。だからこそ、普遍的な「つながりの力」をはっきりと感じられて、どこまでも「この人たちに任せとけば絶対大丈夫!」っていう気持ちですかっと読める、上質なエンターテインメントに酔いしれました。
ダディ、本当にいい男や……!!
ちなみに、青波は個人的に境内のサルジジイが好きでした。
最初は単なる噛ませかと思ったんですが、最後までその認識は崩れないのですが(笑)。
でも、境内の生き様はとてもよい……!!
やっぱり、男たるものああでないとね! 大切なのは一対一の殴り合いだよね!
是非次にお会いしたときには『俺たちのザ・ソウ』と『ヲタ・ゼクスアリス』も是非入手したいところです。わくわく。
特に後者が青波好みな気がしてならない辺りが……
(「童貞のまま歳を経て大いなる力を手にした戦士『穢れ無き決闘者』唯田忠孝」っていうあらすじの一文が心を掴んで離さずにいます)
『真昼の月の物語』
著者:深海いわし さま
サイト:雨の庭
ジャンル:長編SF恋愛ファンタジー
え? もちろんSFですよね!(爽やかに南の方に向かって)
というわけで、何だかんだで十年来のお付き合いとなっている深海さんの大長編です。現在連載中。
深海さんの長編は『Water talks - Homesick』と『黒と白のキリエ』が既読で、
(とにかくホームシックのアレスが好きすぎます。ああいう「良心的な」マッドサイエンティスト大好き)
こちらは既にかなり長かったのでちょっと後回しにしていたのですが……。
ついにSFネタ開陳のターンに入ったということで、インフルエンザにかかったのをいいことに最新分まで一気に読破してました。
それが今年1月のお話です。(笑)
このお話は、記憶喪失の少女フィラ・ラピズラリと、彼女が住む不思議な町ユリンにやってきた新領主である聖騎士ジュリアン・レイ、そして彼らを取り巻く人々が織り成す恋愛ファンタジーなわけですが。
青波は、何か本編そっちのけでこの「世界設定」にわくわくしている気がします……ごめんなさい深海さん……。
魔法のシステムとか「神」の概念とか、とにかく青波ホイホイの要素が多すぎるんですって。
世界の謎が本格的に明かされていくのは二部に入ってからなのですが、そこまでも何処か不穏な空気や「違和感」があちらこちらにちりばめられていて。
「あ、これ、もしかして……」って思っていたことが明示された時の「うわあああ」という気分が味わいたくて、ついつい続きが気になってしまいます。
空の色や、雨の描写、一瞬消える月の情景が浪漫溢れてたまりませんね。
そして、それらの秘密を一手に握る謎の男、ジュリアンの危なっかしさ!
あれです、自作ネタで申し訳ないですが、空色における「ブラン殴りたい」に極めて近い感覚なのですよ!!(これについては、深海さん公認なのがまた)
こう、首根っこ掴んで「お前とっとと全部吐き出せそしてフィラのためにも幸せになってくれ頼むからあああああ」とがくがく揺さぶってやりたい感じ、と言えばいいのでしょうか。
そしてそうやって、がくがく揺さぶったところで、全く通用しないまま、しれっとした顔をしていそうなのが、また、また……ジュリアン殴りたい!
……と、他のジュリアンの仲間たちも同じことを思ってるんだろうなあ、と生温く思ったりしつつ。
しかし、そんなジュリアンを少しずつ攻略しにかかるのが、我らが主人公フィラ嬢なわけです。
がんばれフィラ。負けるなフィラ。本気であの二人の幸せを祈らずにはいられません。
でも、フィラが何だかんだで健気で明るい子なので、結構安心して読んでいられます。彼女の足元だって、決して堅固なものではないはずなんですが。それでも、ジュリアンの服の袖を掴んでいてくれそうな感じ、というか。
この二人の物語は、絶対に最後まで追いかけていきたいところです。
ちなみに、この物語というか世界を読み解くに当たっては『旅の終わりの空へ』も必読ですよ!
こちらは中編で、少年と少女のロードムービーものです。
世界レベルでは「どうしてこうなった!?」感がいっぱいで、本当にときめきが止まりません。
いやしかし深海さんは本当に罪作りやでぇ……早く、早く続きを……。
著者:深海いわし さま
サイト:雨の庭
ジャンル:長編SF恋愛ファンタジー
え? もちろんSFですよね!(爽やかに南の方に向かって)
というわけで、何だかんだで十年来のお付き合いとなっている深海さんの大長編です。現在連載中。
深海さんの長編は『Water talks - Homesick』と『黒と白のキリエ』が既読で、
(とにかくホームシックのアレスが好きすぎます。ああいう「良心的な」マッドサイエンティスト大好き)
こちらは既にかなり長かったのでちょっと後回しにしていたのですが……。
ついにSFネタ開陳のターンに入ったということで、インフルエンザにかかったのをいいことに最新分まで一気に読破してました。
それが今年1月のお話です。(笑)
このお話は、記憶喪失の少女フィラ・ラピズラリと、彼女が住む不思議な町ユリンにやってきた新領主である聖騎士ジュリアン・レイ、そして彼らを取り巻く人々が織り成す恋愛ファンタジーなわけですが。
青波は、何か本編そっちのけでこの「世界設定」にわくわくしている気がします……ごめんなさい深海さん……。
魔法のシステムとか「神」の概念とか、とにかく青波ホイホイの要素が多すぎるんですって。
世界の謎が本格的に明かされていくのは二部に入ってからなのですが、そこまでも何処か不穏な空気や「違和感」があちらこちらにちりばめられていて。
「あ、これ、もしかして……」って思っていたことが明示された時の「うわあああ」という気分が味わいたくて、ついつい続きが気になってしまいます。
空の色や、雨の描写、一瞬消える月の情景が浪漫溢れてたまりませんね。
そして、それらの秘密を一手に握る謎の男、ジュリアンの危なっかしさ!
あれです、自作ネタで申し訳ないですが、空色における「ブラン殴りたい」に極めて近い感覚なのですよ!!(これについては、深海さん公認なのがまた)
こう、首根っこ掴んで「お前とっとと全部吐き出せそしてフィラのためにも幸せになってくれ頼むからあああああ」とがくがく揺さぶってやりたい感じ、と言えばいいのでしょうか。
そしてそうやって、がくがく揺さぶったところで、全く通用しないまま、しれっとした顔をしていそうなのが、また、また……ジュリアン殴りたい!
……と、他のジュリアンの仲間たちも同じことを思ってるんだろうなあ、と生温く思ったりしつつ。
しかし、そんなジュリアンを少しずつ攻略しにかかるのが、我らが主人公フィラ嬢なわけです。
がんばれフィラ。負けるなフィラ。本気であの二人の幸せを祈らずにはいられません。
でも、フィラが何だかんだで健気で明るい子なので、結構安心して読んでいられます。彼女の足元だって、決して堅固なものではないはずなんですが。それでも、ジュリアンの服の袖を掴んでいてくれそうな感じ、というか。
この二人の物語は、絶対に最後まで追いかけていきたいところです。
ちなみに、この物語というか世界を読み解くに当たっては『旅の終わりの空へ』も必読ですよ!
こちらは中編で、少年と少女のロードムービーものです。
世界レベルでは「どうしてこうなった!?」感がいっぱいで、本当にときめきが止まりません。
いやしかし深海さんは本当に罪作りやでぇ……早く、早く続きを……。
『サーライズの三角塔』
著者:恵陽 さま
サイト:月明かり太陽館
ジャンル:長編ファンタジー
恵陽さんのお話は青波の好みなわけであります。
『左腕オリバー』と衛星三連作で惚れこんだのですが、このお話もとてもよかった……。
というわけで、執筆を横において一気に読んだ感想です。
(一部はツイッターで呟いた内容ですが)
町外れの塔に軟禁されて共同生活を送る、八人の若者のお話。
「巫女」と「護衛騎士」と呼ばれる八人は、町の掟で塔から出ることなく九年間を過ごしているわけですが。
ある日、その巫女であるアークが忽然と消えたことから、塔の止まっていた時間が動き出します。
明かされる掟の真実と、それを知った彼らの息の合った行動と、その先に待つ「未来」を迎えるまでの流れが、テンポよく展開されていくわけですが。
全編通して物語を包む雰囲気がすごく優しくて、安心して読み進められました。
結局のところ、彼らを塔に縛っていたのは「過去」のしがらみなのですが。
その「過去」を目の前にして、それに対して八人がそれぞれの思いをそれぞれに抱きながら、でも、前向きに己の取る道を選び取っていくのがよいですね。その選択が、絶対によいものになると信じさせてくれる八人の明るさに救われます。
例えば、テトラはこの八人の中でも明確な「憎しみ」を示すわけですが、それも、あの八人の中にあって、やわらかく丸められて、過激に暴発することなく、正しく「未来」に収まっていく。
そうなるのも、あの八人が決して腐ることなく、お互いに認め合いながら、本当に「家族」のように暮らしてきた結果なんだろうなあ、と。素直な気持ちで思えるわけです。
そして、その「家族」の絆は、彼らの前に立ちはだかる(?)ヨアヒムにも言えることで。
どこまでも、あたたかな、絆のお話でした。
しかし、恵陽さん、メイスン書くの楽しかったんだろうなあ……(笑)
恵陽さんが「腹黒描きやすい」って言ってたのがすごくよくわかる……確かにメイスン超生き生きしてました。
青波はカーツェのあの穏やかなたたずまいが好きでした。あと番外編の滋養強壮スープはやたら笑えました。あ、あの邪気の無さは反則だ……!
あとクアン様いい人すぎるだろおおおおお。
あと、地味に、「最後は皆、それぞれの道を歩んでいく」、っていうのが好きな青波は、あの結末がとても好きだったりします……。
あと、これはこのお話に限ったことではないのですが、恵陽さんの小説って、ページタイトルの名づけに毎度にやっとさせられます。(ソースでいうtitle部、というべきか)
こう、本文のタイトル以上に作者の本音が滲んでいるというか。笑。
最初の「とりあえずは名前だけ」に吹いたのは私だけでいい。
【余談】
そういえばこれは『サーライズの三角塔』は関係ないんですが。
本日『現代悪役概論』を「Short Story Cafe」様に登録しててふと思い出したのが、恵陽さんの『限りなく白にちかい黒』でした。
というか、短編リスト眺めてて、そういやこれ恵陽さんの作品だったか……! というのが今更の驚き。
当時は恵陽さんの他の作品を知らなかったので、今になって驚いています数年越しに。
(実は恵陽さんの話で初めてまともに読んだのが企画参加作品『限りなく白にちかい黒』だったのです……(青波は『現代悪役講義』で参加していたのですが))
あれはやっぱりオマケの方が怖いですって。凄く怖いですって。
著者:恵陽 さま
サイト:月明かり太陽館
ジャンル:長編ファンタジー
恵陽さんのお話は青波の好みなわけであります。
『左腕オリバー』と衛星三連作で惚れこんだのですが、このお話もとてもよかった……。
というわけで、執筆を横において一気に読んだ感想です。
(一部はツイッターで呟いた内容ですが)
町外れの塔に軟禁されて共同生活を送る、八人の若者のお話。
「巫女」と「護衛騎士」と呼ばれる八人は、町の掟で塔から出ることなく九年間を過ごしているわけですが。
ある日、その巫女であるアークが忽然と消えたことから、塔の止まっていた時間が動き出します。
明かされる掟の真実と、それを知った彼らの息の合った行動と、その先に待つ「未来」を迎えるまでの流れが、テンポよく展開されていくわけですが。
全編通して物語を包む雰囲気がすごく優しくて、安心して読み進められました。
結局のところ、彼らを塔に縛っていたのは「過去」のしがらみなのですが。
その「過去」を目の前にして、それに対して八人がそれぞれの思いをそれぞれに抱きながら、でも、前向きに己の取る道を選び取っていくのがよいですね。その選択が、絶対によいものになると信じさせてくれる八人の明るさに救われます。
例えば、テトラはこの八人の中でも明確な「憎しみ」を示すわけですが、それも、あの八人の中にあって、やわらかく丸められて、過激に暴発することなく、正しく「未来」に収まっていく。
そうなるのも、あの八人が決して腐ることなく、お互いに認め合いながら、本当に「家族」のように暮らしてきた結果なんだろうなあ、と。素直な気持ちで思えるわけです。
そして、その「家族」の絆は、彼らの前に立ちはだかる(?)ヨアヒムにも言えることで。
どこまでも、あたたかな、絆のお話でした。
しかし、恵陽さん、メイスン書くの楽しかったんだろうなあ……(笑)
恵陽さんが「腹黒描きやすい」って言ってたのがすごくよくわかる……確かにメイスン超生き生きしてました。
青波はカーツェのあの穏やかなたたずまいが好きでした。あと番外編の滋養強壮スープはやたら笑えました。あ、あの邪気の無さは反則だ……!
あとクアン様いい人すぎるだろおおおおお。
あと、地味に、「最後は皆、それぞれの道を歩んでいく」、っていうのが好きな青波は、あの結末がとても好きだったりします……。
あと、これはこのお話に限ったことではないのですが、恵陽さんの小説って、ページタイトルの名づけに毎度にやっとさせられます。(ソースでいうtitle部、というべきか)
こう、本文のタイトル以上に作者の本音が滲んでいるというか。笑。
最初の「とりあえずは名前だけ」に吹いたのは私だけでいい。
【余談】
そういえばこれは『サーライズの三角塔』は関係ないんですが。
本日『現代悪役概論』を「Short Story Cafe」様に登録しててふと思い出したのが、恵陽さんの『限りなく白にちかい黒』でした。
というか、短編リスト眺めてて、そういやこれ恵陽さんの作品だったか……! というのが今更の驚き。
当時は恵陽さんの他の作品を知らなかったので、今になって驚いています数年越しに。
(実は恵陽さんの話で初めてまともに読んだのが企画参加作品『限りなく白にちかい黒』だったのです……(青波は『現代悪役講義』で参加していたのですが))
あれはやっぱりオマケの方が怖いですって。凄く怖いですって。
「何で青波読んでなかったの?」
というレベルで実は読んでなかった本、それがこれです……。
『マルドゥック・スクランブル』
著者:冲方丁
※全三巻
本当に、何故に読んでなかったんでしょうねえ……。
昨日あまりにも続きが気になって、一気に二、三巻読みきっちゃいました。
『終末の国から』辺りを見てればわかると思いますが、青波はサイバーパンクが大好きです。
あの退廃的な世界観、突拍子も無い(でも何処かリアルな)技術、イビツながらも貪欲に世界を行きぬく人たちが大好きなのです。
ファンタジィ部では廃れていたトーキョーN◎VAを「やろう」って言い出したのも自分ですしね!
(その割に世界観とルールを理解できず最も下手なRL・PLだったのも内緒)
一体この原点がどこにあるのかわからないのですが、とにかくそんな青波のツボを全力で突いてきたお話でした。
話の内容としては超シンプルで、ある出来事によって死に瀕した一人の少女が、超技術の身体と武器を手にして「生きる」ことを選択するお話。
ただ、その一つ一つの選択に至る「過程」が、すごく、胸に来るのです。
いくつもの出会いと戦い、そして足元に絡み付いてくる過去。
それらと向かい合い、己に問い、他者に問うことを繰り返す。
何度も死を耳元で囁かれながらも、相棒と共に少女は生きていくのです。
とまあ、真面目に書きましたが、ストーリーに関しては読んでください。
これは多分読まないと面白さがわからないタイプの話だと思います。
だってどう見てもバトルものなのに、半分はカジノでのギャンブルのシーンですからね……!!(笑)
しかしこれがアクションシーンよりも手に汗握るし涙も出る、最大の「戦い」なんです。
スピナーのベル・ウィングがかっこよすぎます。凛とした老女、ってすごくいい……。
この人が、主人公バロットに影響を与える過程がとても美しいのです。
言葉がなくても伝わるもの、というか。
あと、多分この話のラスボスはアシュレイ・ハーヴェストですよね……まさしく「強い」人。
正直読み終わってみるとカジノのシーンの印象が強すぎて。ごめんボイルド。
それと、この話は「人の形をしていないもの」がとても愛らしいです。
主人公の相棒、喋るネズミの姿をしたウフコックしかり、情報を統べるイルカのトゥイードルディムしかり。
人の形をしていないけれど、だからこそ「人」の心と人に寄り添う思いがあるというか、
そんな優しい感情が、擦り切れて焦げ付いた世界に確かに存在するという安堵というか。
そう、すごくハードなんですけど、何だか優しいお話だなあって思ったんです。
疾走感の中に確かに存在する、包み込むような温かさが印象的でした。
あ、ちなみに一番好きなのはドクター・イースターです。
あのマッドサイエンティスト的思考と、人間的優しさの均衡っぷりが愛しいです。
この話の中で一番「人間」を理解している気がするんですよね、ドクター。
……登場時は一瞬蛇崩か何かと思いましたが。
(蛇崩:舞台「Sweet7」に登場するパティシェのような何か)
そういえば、ドクターって徹頭徹尾カオス理論の人だったんですな。
最近ちょうどバタフライ効果について調べてたんで、
ドクターが突然その話を始めたときにはびびりました。笑。
というわけで、のったり『マルドゥック・ヴェロシティ』も崩していこうと思います。
『フラグメンツ』まで終わったら大人しくニューロマンサーの続編読むかな……。
というレベルで実は読んでなかった本、それがこれです……。
『マルドゥック・スクランブル』
著者:冲方丁
※全三巻
本当に、何故に読んでなかったんでしょうねえ……。
昨日あまりにも続きが気になって、一気に二、三巻読みきっちゃいました。
『終末の国から』辺りを見てればわかると思いますが、青波はサイバーパンクが大好きです。
あの退廃的な世界観、突拍子も無い(でも何処かリアルな)技術、イビツながらも貪欲に世界を行きぬく人たちが大好きなのです。
ファンタジィ部では廃れていたトーキョーN◎VAを「やろう」って言い出したのも自分ですしね!
(その割に世界観とルールを理解できず最も下手なRL・PLだったのも内緒)
一体この原点がどこにあるのかわからないのですが、とにかくそんな青波のツボを全力で突いてきたお話でした。
話の内容としては超シンプルで、ある出来事によって死に瀕した一人の少女が、超技術の身体と武器を手にして「生きる」ことを選択するお話。
ただ、その一つ一つの選択に至る「過程」が、すごく、胸に来るのです。
いくつもの出会いと戦い、そして足元に絡み付いてくる過去。
それらと向かい合い、己に問い、他者に問うことを繰り返す。
何度も死を耳元で囁かれながらも、相棒と共に少女は生きていくのです。
とまあ、真面目に書きましたが、ストーリーに関しては読んでください。
これは多分読まないと面白さがわからないタイプの話だと思います。
だってどう見てもバトルものなのに、半分はカジノでのギャンブルのシーンですからね……!!(笑)
しかしこれがアクションシーンよりも手に汗握るし涙も出る、最大の「戦い」なんです。
スピナーのベル・ウィングがかっこよすぎます。凛とした老女、ってすごくいい……。
この人が、主人公バロットに影響を与える過程がとても美しいのです。
言葉がなくても伝わるもの、というか。
あと、多分この話のラスボスはアシュレイ・ハーヴェストですよね……まさしく「強い」人。
正直読み終わってみるとカジノのシーンの印象が強すぎて。ごめんボイルド。
それと、この話は「人の形をしていないもの」がとても愛らしいです。
主人公の相棒、喋るネズミの姿をしたウフコックしかり、情報を統べるイルカのトゥイードルディムしかり。
人の形をしていないけれど、だからこそ「人」の心と人に寄り添う思いがあるというか、
そんな優しい感情が、擦り切れて焦げ付いた世界に確かに存在するという安堵というか。
そう、すごくハードなんですけど、何だか優しいお話だなあって思ったんです。
疾走感の中に確かに存在する、包み込むような温かさが印象的でした。
あ、ちなみに一番好きなのはドクター・イースターです。
あのマッドサイエンティスト的思考と、人間的優しさの均衡っぷりが愛しいです。
この話の中で一番「人間」を理解している気がするんですよね、ドクター。
……登場時は一瞬蛇崩か何かと思いましたが。
(蛇崩:舞台「Sweet7」に登場するパティシェのような何か)
そういえば、ドクターって徹頭徹尾カオス理論の人だったんですな。
最近ちょうどバタフライ効果について調べてたんで、
ドクターが突然その話を始めたときにはびびりました。笑。
というわけで、のったり『マルドゥック・ヴェロシティ』も崩していこうと思います。
『フラグメンツ』まで終わったら大人しくニューロマンサーの続編読むかな……。