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2025/02/03 16:16 |
 それは――
 「俺」が二つ目の名前を名乗っていた頃の話。
 おそらく「俺」の長すぎる記憶の中でも一番幸せだった頃の話。
 空色をしたあいつを、遠くから眩しいものを見るように見つめていた時代の、話。
 
「何で、そんなに離れたところから見てるの?」
 そう、聞かれたことがあった。
「んー、俺様、あそこにいちゃいけねえなあって思ってね」
 そう、答えたことがあった。
 そいつは不思議そうに眼鏡の下の秋空色をした目を細めて、問うたものだった。
「何でさ」
 だから、「俺」は笑って言ったんだ。
「だってさ、俺様は」
 
 「終わり」を知ってたから。
 どんな物語にも終わりがあるのだと、初めからわかっていたから。
 その終わりの形も、その時には確かに見えていたから。
 
 
 そして、今の名前を呼ばれて、彼は現実に引き戻される。
「……ああ、飛鳥」
「どうしたの、ニヤニヤして」
「ん、昔のこと思い出してたんだ」
「思い出せるようになったの?」
「少しだけな」
 くくっと笑って、小林巽は改めてちゃぶ台の上に頬杖をつく。ワイングラスの中で、赤い液体が微かに揺らめいた。飛鳥が持ってくるワインは、高くて美味い。
 巽は自称『元神様』で、遠い記憶を今も抱いて生きている。その記憶の多くは辛いもので、「思い出さないように」努めていることは友人である秋谷飛鳥も知っていた。だから、飛鳥は首を傾げる。
「ニヤニヤしてるってことは、楽しい記憶だったの?」
「どうだろうな。面白いといや面白いし」
 寂しいといえば、寂しい。
 巽は左の腕に巻かれた、細い銀鎖のブレスレットを見つめる。誕生日プレゼントとして、今日彼女である花屋のお嬢さん、椎名葵から貰ったものだった。曰く「巽くんにはきっと似合うと思って」とのこと。
 鎖には、少女趣味にならない程度に小さな花があしらわれていた。銀で作られてはいるが、きっと元々は記憶の奥の秋空のように青い花。
『……いやはや』
 巽は記憶の底にある、日本語とはまた違う言語で銀色の鎖に語りかける。
『思い出しても笑っていられるようになったんだな、俺様も』
 去年までは無理やり、頭の中に押し戻してしまったものだったけれど。
 何故かこの銀の鎖を見ていると、それらの思い出一つ一つが寂しさを伴いながらもどこまでも優しいものに感じられた。
 同じように銀色の鎖を抱いていた、秋空の瞳を持つ人の姿を、思い出したから。
『終わりがわかってたって、俺様は幸せだったんだもんな……忘れてたよ』
 どんな小さな出来事でも忘れるはずのない巽の中で、唯一忘れていた……忘れようとして封じてしまったこと。あの時の自分は確かに、幸せだった。悲しいことも多かったけれど、何よりもあの場所に立っていられることが、嬉しかった。
 そして、今、自分がここに座っていられることも、同じくらい幸せなことで。
「飛鳥、俺様って幸せ者だなあ」
「巽くん、今さらでしょそれは」
「はは、言えてら」
 今の名前を呼ばれて、巽は笑う。笑いながら銀の鎖を巻いた左の手でワイングラスを取った。
 
 そうして、小林巽が「こちら」に来てから八回目の誕生日の夜は更けていく。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2007年の小林巽。
空色執筆も宣言しましたし、折角なので正式に公開。
もちろん空色がらみの話です。
一応前空色の時に書いたものなのですが、この辺の設定は弄ってないのでほぼその時のままです(笑)。

秋空の君と、勿忘草色の記憶。
……実際に勿忘草色をしているのは自分なのだけれどもね。
(しかし青波の中ではたつみんにしろ、奴にしろ微妙に色イメージは黄色系なのです。まあ純粋にカラーリングの問題ですがっ)
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2009/06/18 00:00 | Comments(0) | 小説断片
ミルクキャラメル
 目を開ければ、黄色いミルクキャラメルの箱が目の前にあった。
「ちょっと吃驚したぞ、ハル」
 もちろん、キャラメルが自分で歩いたり空を飛んだりはしないので、いつの間にやら横に座っていたハルが、彼の目の前にキャラメルの箱をぶら下げているのだが。目を向ければ、ハルは普段通りのふわふわとしたつかみどころの無い笑顔を浮かべてみせる。
「だってセンパイ、呼んでも起きないじゃないですか。次の時間始まっちゃいますよ」
「眠いんだよ、勘弁してくれ」
 やる気なさげにひらひらと手を振るセンパイに対し、ハルは大げさに頬を膨らませる。
「そんなこと言ってると、またダブっちゃいますよ?」
「そしたら退学して霊能力者としてでも売り出そうかね」
 心にも無いことを言って、キャラメルの箱越しに空を仰ぐ。近頃は梅雨らしい陽気が続いていたが、今日は少しだけ晴れ間が覗いている。だからこそ、センパイも特等席である屋上で昼寝を決め込んでいたのだ。ハルも空を見上げて、「いい天気ですねー」とのんびりしたことを言う。
 すると、予鈴のエリーゼが鳴り響いた。ハルは「はわっ」と慌てて立ち上がるが、
「ま、後から行くからマツモトに聞かれたらそう言っといてくれ」
「了解です。あ、これは差し上げますね」
 ハルはキャラメルの箱をセンパイに手渡す。センパイは寝転がったままそれを受け取ると、古臭くも何となく懐かしいパッケージを眺めながら言う。
「お前が菓子持ってるなんて珍しいな。しかも何でキャラメルなんだ?」
「今日は、ミルクキャラメルの日だそうです。ミカさんが言ってました。それで、センパイにあげれば喜ぶよーって話だったんで」
「あー、はいはい、そういうことね。ありがとさん」
 一体何が「そういうこと」なのかはわかっていないらしく、首を傾げるハルだったが、センパイは「早く行けよ、次の授業遅れるぞ」と手を振る。
「そうですね。センパイも、早めに来てくださいよ」
「気が向いたらな」
 気の無い返事ではあったが、それもいつものことではあったのでハルは「それじゃお先に」と言ってスカートを揺らし、屋上を後にした。
 一人残されたセンパイは、キャラメルの箱を振る。かたかたと乾いた音がするところを見ると、ハルとミカが一つずつつまみ食いした後じゃないかと推測される。
「ハルはともかく、ミカはわざと食ってやがんな……」
 ハルにわざわざ「ミルクキャラメルの日」なんてマイナーな話を振るのだ、わかってやっているに決まっている。とはいえ、今日のことを覚えていたのは流石に全ての情報を把握しているミカなだけはある。
「……ま、折角ですから美味しくいただきますかね」
 センパイはミルクキャラメルの箱を顔の上にかざして、ほんの少しだけ笑う。
 今日も『エリーゼのために』のメロディに乗せて一日が過ぎてゆく。ゆっくりと、いつも通りに。


・・・・・・・・・・・・・・・・

六月十日は森永の策略によりミルクキャラメルの日です(笑)。

2009/06/10 00:00 | Comments(0) | 小説断片
六月九日のP3S
「誕生日おめでとう、レイ!」
 P3S本部は、祝祭のムードに包まれていた。
 その中心にいるのは我らが第五班のトラブルメーカー、レイ・セプター。
 今日はレイの十九歳の誕生日であり、祭好きというか騒ぐのが大好きなP3Sの面々は仕事そっちのけで誕生日パーティなんて開いていた。
「ありがとう、皆!」
 レイは子供のようににこにこと笑いながら、皆のプレゼントを受け取ったり豪華な食事に舌鼓を打ったりしていた。周りのP3S構成員たちも、レイに祝いの言葉を投げかける反面、てんで好き勝手に騒いでいる。酒が回ってきたのか、色々とテンションが怪しくなりはじめた頃。
 第四班班長アイル・エアレイドは、部屋の片隅でどんよりとしたオーラを漂わせている第五班班長、クレセント・クライウルフの存在に気づいた。
「……どうした、クレセント」
 アイルは気づく。クレセントは泣いていた。あの最凶最悪のクライウルフ班(と言っても二人構成なのでコンビなのだが)を率いる魔法士クレセント・クライウルフが、である。
 驚くアイルに「すまない、場を弁えずに」と小さな声で謝るクレセントだったが、アイルは「構わない」と首を振り、問う。
「一体、何があった」
「エアレイド……私は、私は……」
 クレセントは目頭を押さえたまま、湿った声で告げた。

「また、セプターに掛け算九九を教えきれないまま、一年を過ごしてしまったのだ……!」

 今にもその場で声を上げて泣き崩れんばかりのクレセントを、そりゃあもう生ぬるい表情で見上げるアイル。ただ、馬鹿馬鹿しい話ではあるが、クレセントがいたって本気なのはアイルにもしっかり伝わってしまった。
「泣くな、クレス……今日は飲むか」
「ああ、すまない、エアレイド……くそっ、私が不甲斐ないばかりに……」
「いや、お前は何も悪くないから。そういちいち落ち込むな」
 アイルは、肩を落とすクレセントを励ましながら、そっとP3S本部を後にした。
 そして来年の六月九日も全く同じ光景が繰り広げられるのだが、それはまた別のお話。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


レイ誕のくせにクレスの話だってのは内緒である。
アイル(アイリット・エアレイド)は「死の第四班」の班長。
実は第五班よりヤバイ面々の集まりだったりするのだが、そいつらを取り仕切る苦労人。
こっそり手ブロに描いてあるジェイドさんは第四班の面子ですが。
とにかくアイルは皆の保護者的な人。まだ若いクレスとレイに対してもお兄さんというかお父さんというかそんな感じで接しているっぽい。

2009/06/09 19:06 | Comments(0) | 小説断片
Ex:無理・無茶・無謀……なのか?
「シンって、綺麗な顔してるよね」
「ぁあ?」
 テレサに顔を覗き込まれ、俺は思わず変な声を上げて視線を逸らしてしまった。その……何だ。遠慮なく顔を近づけるのは止めて欲しい、ちょっと意識しちゃうじゃねえか。
「綺麗な顔って、俺が?」
「うん。作り物ってのもあるかもしれないけど、髪はさらさらだし肌は白いし。それに、いつもそんな目つきしてるからわかりにくいけど、目も結構円らで綺麗な色してるんだよね、シンって」
「へーへー、目つきが悪くて悪ぅござんした」
 実はそうなんだよな。
 俺は向こうでの癖でつい目を細めてしまいがちだ。別にこっちでも向こうでも目は悪くないんだが……元々の目つきがちょっとアレなせいで、目を細めて誤魔化す癖がある。ついでにこれも癖なんだが、目を細めるのと同時に眉を寄せてしまいがちで、そのせいですげえ不機嫌そうな顔に見られる。
 まあ八割は実際に機嫌が悪いんだが。
 で、この体。何て言ったか、確かレナード・アルクエルだっけ? そんな名前の博士の顔をそのまま再現したっぽいんだが、これがなかなかの美形だったりする。
 特に目元の辺りが似ていると言われたからには、どうもレナードさんってのは相当な童顔だったらしい。俺はいつもこんな表情してっからそうでもないが、実は目を見開くとかなり円らな目をしていて、顔の作りだけで言えば十七歳というにもちょいと幼い。
 それに、十七にしては低すぎる身長に、長い睫毛に小さくも形のいい唇……
 まあ、何だ。
 つまり、かなりの割合で……
「女の子にも見えるけどね」
「言うな。結構気にしてんだよ俺も」
 向こうの俺が顔の悪さを気にしているのとはちょっと違う意味での「気にする」だが。町を歩いてると時折周囲の目が変な意味で怖えんだよ! だから俺はごく普通の健全な十七歳高校生男子だっつーの!
「意外と気にしてたんだ?」
「気にするに決まってんだろ。全く、鋼鉄狂の奴何考えてやがるんだか」
「さあねえ、天才の考えることは僕にもわからないよ」
 テレサも肩を竦める。
 鋼鉄狂は、この体というよりモデルとなったレナードさんと何かしらの関係があるらしい。まあその辺の事情は聞いてしまうと詮索になっちまうし、俺はずっと聞けずにいるんだが。特に詳しく知りたいとも思わないし、なあ。
 だから俺も曖昧に相槌を打ったの、だが。
「それにしても、何もしなくても綺麗ってのは羨ましいなあ……」
「テレサだって、その、結構綺麗じゃねえか」
「それは、褒めてくれているのかい?」
 む、素直じゃねえな。
 というか「綺麗」っていう言葉を言うのにもちょっと勇気が要ったんだからその辺は素直に受け止めてくれよな! テレサが綺麗なのは事実なわけだしさあ。
 テレサはそんな俺の心も知らずくすくすと笑いながら、再び俺の顔を覗き込んできやがった。
「僕は色々お手入れもしてるし、化粧もしてるからさ。けど」
「け、けど?」
 俺は思わず一歩下がってしまう。
 何だろう、さっきの視線とちょっと意味合いが違う気がする。何でこんなに寒気がするんだ?
 理性では全く理解できていないが、感覚が「嫌な予感」を訴える。そして、俺の場合……理性を重んじる割に、感覚の方がよっぽど正しい判断を下していることが多い、ので、ある。
「君の顔、よくよく見ると化粧映えもしそうだね」
「謹んでお断りしたいですテレサさん」
「はは、僕相手に謹まなくてもいいんだよ、シン? ほら、ちょうどよくここに化粧道具もあることだし」
「ちょうどよくっつか普通に持ち歩いてるからだろー!」
 やばい。
 これは逃げなくては、いろいろとまずい。主に俺の男としての尊厳的に。
 だが……現実は非情である。俺の背は壁にぶち当たり、それ以上下がることを許してくれない。頼みの綱であるルクスさんは、買い物と言って出かけたまま帰ってこない。
 というか、ルクスがいたところで面白がって絶対テレサに加勢するだろうがな! わかってるよそのくらい! でもちょっと夢見たかったんだよ!
 抵抗しようにも、体格では勝るテレサには勝てる気がしない。いやまあ、テレサは魔道士だし剣士である俺が本気で暴れりゃ何とでもなるんだが、女の人相手に大暴れするなんて俺にはできません。相手がテレサでも出来ないんだよそれは!
 というわけであっさり両手を押さえられ、壁に縫い付けられる形になっちまった俺は、目の前でにっこり笑うテレサを見上げることしかできなかった。
 テレサは青い瞳でにっこりと……そりゃあもう楽しそうに微笑んだものです。
「それじゃあ、始めようか?」




続く……のか?
続かないで欲しいなあ(笑)。
ちなみにきっかけになったのは今日見てたプレイ動画のミケーレ女装イベントだったりしましたがっ。
女装は定番ですよね!(いい笑顔で)

しかしこの文章は簡単に書けたな。
そうか、青波にはギャグ分が足りてなかったのか……

あと地味に「女装してもきちんと女っぽく見える主人公」って久しぶり。
ほら、今までの主人公って、綺麗な顔だったとしても身長高かったりして女装ネタをやるにやれなかったから……ラビとかラビとかラビとか~♪
あとザワとか巽とかもそうですね。あいつら普通に180超えてます。ザワに至っては190超えてますよ! そんなオナゴは嫌だ!
あと飛鳥もゴツいので却下。胸っつかそれ大胸筋だろ!(←)

2009/02/05 01:03 | Comments(0) | 小説断片
アイシームーン・レイニーガール 仮設定
「Icy Moon / Rainy Girl」
仮設定ですよ。

・雨宮玲奈
中学生。雨女。読書が好きなごく普通の女の子。
仲のよい友達のためにクリスマス・プレゼントを探している。
霊感はちょっとだけあるので事態の理解はできる(笑)。
意外と変なことに対する耐性はあるっぽい。

・『ロの八番』上条凪
高校生。身体能力を高めるタイプの『異能』を持つ。ノイマンピュア。
基本的にぶっきらぼうな感じだが、根は真面目だし熱いしお人よし。
クラスメイトに「男だけの鍋パーティ」に誘われている。
ひとまず仕事を終えてから考えることにする。

・『スノウ・クイーン』
『異能』。冷気を操る能力者。サラマンダーピュア。
色々と謎の多い女の子。

・クジラさん
妖怪さん。あらあらまあまあ、って感じのお姉さん。エグザイル/バロール。
ふわふわしているけれど、その実守りは鉄壁。
クリスマスで浮かれているので騒ぎになるのは嫌らしい。
ちなみに本人曰く「出張中」。

・魔法使い
大学生。風を操る魔法使いだが実は何でもできる。ハヌマーン/オルクス。
彼女とのデートに向かうはずが事件に巻き込まれる。
クジラさんとは知り合いっぽく、一方的に引きずられていく。
とことん不幸。

2008/11/04 02:32 | Comments(10) | 小説断片

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