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2024/04/20 12:34 |
アイレクスの走馬灯 - 外套
 
アイレクスの走馬灯 - snow noise blind

【外套】
 
 
「……どうした?」
 後部座席に上がってみると、いつ目を覚ましたのだろう、薄い毛布を被った鈴蘭がもう一つ小さくくしゃみをした。
「寒いんだな」
「だいじょぶ。ちょっと、目が覚めちゃっただけ」
 全く信用できない。
 それは、僕が鈴蘭を苦手にしているから、なんて下らない理由じゃない。毛布を握る手が、微かに震えていたのだ。確かに今夜はこの時期の平均と比べてもかなり気温が低い。寒くて当然なのだ。
「寒いなら寒いって言ってくれ」
「う、うん。でも本当にだいじょぶだから。心配しないで、ゆっくり休んで」
 変なところで強情だ。何が一体「だいじょぶ」なのか、僕にはさっぱりわからないというのに。
 このまま話していても埒が明かない。ここが町ならばすぐにでも防寒具を調達するところだが、とりあえず今は自分が着ていた外套を脱いで差し出す。
 辺境向けに仕立ててもらったもので、体全体を覆えるほどに長く、防寒性は高い。その代わり動きやすさが阻害される欠点はあるが、今この瞬間は関係ない。
「僕のでよければ、使って構わない」
「え、でも、悪いよ」
「風邪でも引かれたらこっちが困るんだ」
「だけど、ホリィは寒くないの?」
「一晩くらいどうってことない」
 寒くないといえば嘘になるが、そもそも、僕の体はそう簡単に体調に異常をきたすようには造られていない。相手がジェイならともかく、僕を心配するのは見当違いにもほどがある。知らないのだから、仕方ないとは思うけれど。
 でも、と言いかけた鈴蘭に、外套を押し付ける。鈴蘭は目を白黒させながら外套を握って、持ち上げてみたり裏返してみたりと落ち着かない様子だったが、やがて何とか納得してくれたのか、肩の上から外套をかけた。
「それじゃ、お休み。僕は助手席で寝てるけど、何かあったらすぐ言ってくれ」
 鈴蘭からの返事は無かったが、肯定と思って後部座席から降りようとした、その瞬間。
「えいっ」
 突然腕を引っぱられた。
 予想していなかっただけに、そんなに強い力でなかったにも関わらず、僕は呆気なく後部座席に引き戻されてしまった。
「何を……」
 するんだ、と言いかけた僕の言葉を遮って、鈴蘭が素早く体を寄せてきたかと思うと、肩にかけていた外套で僕の肩を包んだ。
「どうせ寝るなら、一緒の方があったかいよ。それに」
 呆然とする僕の横で、鈴蘭は……あくまで無邪気に笑っていた。
「君が寒そうだと、わたしまでもっと寒く感じるの」
 これでは襲撃されでもした時、すぐに対応できないではないか。早く何か言い返さなければ、と思うのに、言葉が出ない。
 僕がそうやって口をぱくぱくさせている間に、鈴蘭は「それじゃ、おやすみなさい」とにっこり笑って、僕に寄りかかるようにして目を閉じてしまった。
 ……こんな姿を見られたら、絶対にジェイに笑われてしまう。
 思いながらも、寝息を立て始めた鈴蘭を起こすことなんて出来るはずもなくて。
 僕はただ、ただ、寄りかかる彼女の重さと温もりを感じていた。
 
 
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2011/09/01 20:57 | Comments(0) | 小説断片

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