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「例えば」
「俺が飛べたなら。お前の手を煩わせなくて済んだのかな」
「それでも、二人で翼を並べて飛んでたんじゃねーかな」
「どうして?」
「俺様が、お前と飛びてーからだよ。決まってんじゃねーか」
「俺と……」
「それで、二人で好き勝手飛んで、とっくに蒸発してんじゃねーかな」
「ああ、なるほど」
「だから、俺様はこれでよかったと思ってる。お前は歯がゆいだろうけどさ」
「いや」
「ん?」
「俺も、今の在り方は、別に嫌いじゃない」
「そっか」
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2016/12/05 20:22 | 小説断片
Twitter300字SS「月」

 相方は今日も絵筆を握り、カンヴァスと向かい合っていた。
 霧の無い空を夢に見るという変わり者は、俺の知らない景色を描き出す。限りなく黒に近い紺色の空、空の色を映して揺れる水面。そして、
「なあ、これ何だ?」
 空の真ん中に、白銀に輝く真円。内側には不思議な模様が見て取れた。
 相方は筆を止め、紫水晶の目を向けて。
「さあ? 見えたとおりに描いてるだけだから」
 それはそうか。相方が夢に見るのは霧の向こう、誰も知らない空。そこに浮かぶ円盤の名前なんて、お互いに知るはずもない。
 唯一、俺に言えることがあるとすれば。
「綺麗だ」
 俺の言葉を受けて、相方は、少しだけ口の端を歪ませた。
「お前にそう言ってもらえるなら、本望だ」
 
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Title: 月


2016/10/01 21:00 | 小説断片
Twitter300字SS「訪れ」

 全く、面倒くさいことになったものだ。
 俺の顔が怖いのはいつものことだが、ここ数日で、ただでさえ消えない眉間の皺が更に数本増えてしまった。
 俺の目には、お化けや妖怪、つまり「異界からの来訪者」が見えている。
 それは生まれつきなので仕方ないし、今の問題はそこじゃない。
 普段はお互い不干渉を貫くひとでなし連中が、何故か近頃になって、代わる代わるに俺を脅かそうとしてくるのだ。
 隙あらば訪れるそいつらを小突いて追い返すのにも疲れてきた頃、来訪者業界に詳しい上司がいい笑顔で言った。
「最近、賭けになってるそうですよ。いかなる時も仏頂面を崩さない君を、誰が最初に脅かすかって」
「そんな賭けとっとと止めさせてください」

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Title: 北風と太陽みたいなやつ




2016/09/03 21:00 | 小説断片
Twitter300字SS「声」

 目が覚めたら名前も出自も何一つ思い出せない上に、変な場所に軟禁されていて。脱出のためには、施設に散らばる記憶を集める必要があるという。
 理不尽。不可解。状況を表す言葉には事欠かない。記憶を集める、という話だって、真実かわかったものじゃない。
 だけど。
『ユークリッド?』
 頭上から降る、僕の「仮名」を呼ぶ姿なき声。
『どうした、調子が悪いのか?』
 僕を導く天からの声。温もりと、胸の痛みを呼ぶ、声。
 あなたの声を知っているはずなのに、思い出せない。思い出せないということが、何よりも僕の胸を締め付ける。
 だから、僕は前に進む。胸に渦巻く思いの意味を知るために、歪む顔を笑みに変えて。
「いえ、大丈夫です――ダリアさん」

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Title: あなたの声が思い出せない




2016/08/06 22:44 | 小説断片
Twitter300字SS「風」

 ――ブラン・リーワード。
 
 かつて名前の無い影だった友達は、そう名乗った。
「俄然名前らしくなったね」
「だろ?」
 友達は、歯を見せて笑った。俺より十以上は年上なのに、時々こうして子供の顔をする。
「リーワードって珍しい響きだけど、何か意味あるの?」
 すると、友達はついと氷色の目を空に向ける。見上げれば、真っ白な雲が、風に流されてゆくところだった。
「風の行く先」
 ぽつり、風にかき消されかけたしゃがれ声。
 それが答えだと気づいたのは、数拍の後。
「失われた言葉だ。風が俺の背中を押してくれるように、ってな」
 
 そう言った友達は、きっと、この丘を吹く風の行く先にいる。
 二度と会えないってわかった今、確かにそう感じているんだ。
 
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Title: Leeward



2016/04/02 21:00 | 小説断片

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