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2024/03/29 18:09 |
『空色少年物語』番外編「フォッカーは物語る」
あー、相変わらずすごく間が空いてしまっている……
以前ひっそりリクエスト募集した『空色少年物語』のショートストーリー。
そのうち一作が完成いたしましたのでこちらに公開。
ちょっと、消化が順不同になってます……すみません。
絶対にリクエストいただいた分は全部書きますので、のんびりお待ち下さい。

というわけで、第二作目は藤野良人さんからのリクエスト。
「ルネ「おい、料理勝負しろよ」 という若きルネさんとノーグさんを想像しました」
 
 
「わあ、すごい!」
 ちいさな弟殿は、テーブルの上に広がる料理の数々に、目を輝かせました。元々よく輝く銀色の瞳ですが、今は目の前の料理を万華鏡のように映しこんでいます。
「これ、全部食べていいの?」
 その問いかけに答えたのは、弟殿の後ろに控えていた、姉御様でした。金とも琥珀ともつかない色の瞳をした、不思議な気配を持つ姉御様は、妙にまじめな顔で頷きました。
「もちろん。ただ、一つだけ、セイルにお願いがある」
「おねがい?」
「そう。どれが一番美味かったか、教えてほしいんだ」
 弟殿はきょとんとしますが、姉御様はいたって本気です。そして、姉御様の横に立っている主様は……いつも通りの無表情ですが、何かを面白がるような、そんな感覚が伝わってきます。
 そう、これは、姉御様と主様の料理勝負なのです。
 ことの始まりは、久々に家に帰ってきた姉御様が、自室で淡々と模型を組み立てていた主様に勝負を申し込んだことでした。
「おい、料理勝負しろよ」
「……どういう風の吹き回しだ?」
「何となくだ!」
「そうか。じゃ仕方ないな、やるか」
 何が仕方ないのかわかりませんが、二人の間では明確な合意があった模様です。私にはさっぱりわかりませんが。
 ただ、姉御様がことあるごとに主様に、あることないこと難癖付けて勝負をふっかけるのは、私もこの目でよく見ております。どうも、姉御様はどうにかして、主様にぎゃふんと言わせたいようですが……主様は毎度姉御様を正面から迎え打ち、大概は徹底的に叩きのめすのであります。
 そうして、二人は台所を舞台に、勝負を始めました。
 私は、もちろん主様の横で一部始終を見届けておりました。
 手際のよさでは主様が圧倒的でした。何しろ主様は古今東西の料理の作り方を記憶しておられるのです。レシピ通りにしか作れない、という弱点もあるにはありますが、さしたる問題ではないでしょう。
 姉御様は、決して料理下手ではないようですが、少々時間をかけすぎているようです。料理は手早さが命……というのは、主様の受け売りですが。私は人間の味覚や料理に対する心構えがわかるわけではないので。
 ただ、姉御様の料理は、主様のそれに比べると、ちょっとした工夫が加えられています。特に、見目を華やかに見せる一手間は、主様には考えも及ばないところでしょう。
 かくして、華麗なる料理の数々が出揃ったのですが、そこで主様と姉御様ははたと気づきました。
「……で、どうやって勝敗を決めるか、だが」
「考えてなかったのか、姉貴……」
 作るだけ作って、一瞬満足しかけていた主様が、呆れた声を上げます。姉御様は、むーと声を上げて、料理を睨みつけています。ついで、主様を睨みつけました。主様は何も悪くないのに、いい迷惑でございます。
 主様も、少々困った様子で姉御様を見つめ返していましたが、唐突に、妙案を思いついたと言いました。
「それなら、誰かに評価してもらえばいいじゃねえか」
「誰に」
「セイルでいいだろ? セイルが『美味い』って言った料理を作った作った方が勝ち、ってことで」
「それだ」
 ……というわけで、今、この状況に至るわけであります。
 さて、お二人の勝負を託されているとは知らない弟殿はといえば、この小さな体のどこにそこまでものが入るのか、という勢いで、並ぶ料理を平らげていきます。姉御様は、そんな弟殿の様子を、ほとんど瞬きもせずに見つめています。
 主様は……内心で、鼻歌を歌っていましたが。
 ほどなくして、卓の上に並べられた皿の上はすっかり空っぽになり、どちらの料理がより美味か、はっきりする時がやってきました。
 姉御様は身を乗り出して、弟殿に問いかけます。
「で、どうだった?」
 すると、弟殿は、きょとんとして、姉御殿を見上げました。そして、ソースでべたべたになった顔でにこっと笑って、こう言ったのです。
「どれもおいしくて、一番なんて選べないよ」
 これには、姉御殿も面食らっていましたが、やがて、ぷっと吹き出して、大声で笑い出しました。
「そっか、それじゃあ仕方ねえなあ!」
 弟殿の空色の髪をぐしゃぐしゃやりながら、姉御様は笑います。弟殿も、嬉しそうに笑います。そんな二人を、主様は、普段通りの凪いだ心持ちで見つめておりました。
『……主様』
「何だ?」
 主様は、私の言葉を「言葉」として理解しているわけではありません。しかし、何となくは、伝わるものがあるのです。
『弟殿は、極度の味覚音痴ではありませんでしたか?』
「ま、お袋の生ゴミもとい料理を笑顔で食べるくらいだからな。まともな評価ができるとは思ってねえ」
『珍しいですね、主様が姉御様との勝負を放棄するとは』
 私が知る限り、主様は勝負と名の付くものに無関心に見えて、実際には全く妥協する方ではありません。勝負ごとで手を抜けるほど器用ではなく、また、売られた喧嘩は高く買う……ではありませんが、とにかく、挑発されれば乗らずにはいられない方です。
 単純というなかれ。このようなお方を、馬鹿というのです。
 しかし。
「ん……何でだろうな。ただ」
 主様は、楽しげに笑う姉御様と弟殿を眺めて、微かに口元を動かしました。鳥類である私には、人族の顔の微妙な変化を感じるのは難しいのですが……
「セイルが笑ってくれりゃ、俺も、姉貴も一緒に幸せになれるんだよな、って思っちまっただけさ」
 笑っている、ということだけは、伝わりました。
 
 
================
 
というわけで、ルネとノーグの料理勝負でした。
決着は気のせい。
ちなみにフォッカーっていうのは、ノーグの飼ってる賢者鳩のリーダー格です。
奴が飼ってる鳩は、実のところ全部実在の飛行機関連の名前がつけられてます。
一体ノーグがどこからその名前を引っ張り出してきたのかは謎ですが。
藤野氏、リクエスト本当にありがとうございましたー!!
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2012/09/01 11:42 | 小説断片

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