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2017/08/21 21:06 |
【断片記録】メン・イン・グレイの日々
「はー……あー……」
「どうしました?」
 資料を取りに支部に帰ってきた『イの五七』は、廊下の長椅子に座って放心している見慣れた顔に声をかけた。『ロの七一』はトレードマークである銀縁眼鏡越しに『イの五七』を見上げ、唐突に言った。
「こう、ばしゅーって手っ取り早く記憶消せたりしませんかね、メン・イン・ブラックみたいに」
「また『ロの六〇』が何か……?」
「はーい右手に見えますのは始末書の山ー左手に見えますのが次の脚本ー」
「いい具合にキてますね」
 この場には無いはずの書類の姿を見ているらしき『ロの七一』には、哀れみにも似た視線を向けるしかない。
 『ロの七一』は異能によって結成された部隊であるロ班の中でも数少ないデスクワーク専門の人材だ。ごく稀に、己の異能を駆使して表に出ることもあるが、そもそもの能力が荒事向きではない彼は、主に支部から指示を出して他の班員を動かし、その結果を纏めて上に報告する役割を負っている。
 ……要するに、「中間管理職」というやつだ。
 組織の中でも新参に近い『ロの七一』だが、癖の強いロ班の連中を纏め上げ、難易度の高い任務を成功させる手腕は、上層部でも高く評価されているという。だが、ひとたび仕事から離れてしまえば、年齢相応の青年でしかないことも『イの五七』は知っている。
 人と話をしたことで多少は我を取り戻したのであろう、『ロの七一』は壁にもたれかかっていた体を起こして、深く溜息をついた。
「『ロの六〇』の器物破壊癖、もう諦めていいですか」
「諦めたらそこでゲームセットですよ。バディであるあなたが諦めたら誰が『ロの六〇』を止められるのです」
「仕方ないじゃないですか、私がどれだけ言っても聞かないんだからうわああもういっそ私の記憶をばしゅーっと抹消してまっさらにしてくださいお願いします加藤さあああああん」
「残念ながら私は異能ではないので」
 すがりついてくる『ロの七一』をばっさりと切り捨てて、『イの五七』は書類を持ち直す。結構本気で涙目になっていた『ロの七一』は、そんな『イの五七』を見上げて言った。
「それで、加藤さんじゃなかった『イの五七』はこれから『仕事』ですか?」
 仕事、というのは組織の任務とは違う、表向きの職務のことだ。大体は単なる肩書きだけだが、『イの五七』のように組織の任務と表向きの職務を同時にこなしている者も中にはいる。
「ええ……今日こそ原稿を取り立てなくてはならないので」
「〆切、いつなんですか?」
「五日、前」
 前、というのを強調して、『イの五七』は言った。『ロの七一』は「うわ」というとても素直な感想を言葉にしてから、弱弱しく『イの五七』に微笑みかけた。
「お互い、大変ですね」
「ええ。強く生きてくださいね、『ロの七一』」
「了解です」
 おどけて軍隊式の敬礼をする『ロの七一』に背を向けて、『イの五七』は長い廊下を歩いていく。今日もきりきりと痛む胃を抱えて。
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2011/10/02 10:42 | Comments(0) | 小説断片

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