アイレクスの走馬灯 - snow noise blind
【歌姫候補】
《歌姫》とは何か?
《種子》とは何か?
僕は正しい答えを知らない。知らなくてよいことだから。
僕が知っていることは、塔があらゆる手段を使って《歌姫》と呼ぶ子供を集めている、ということ。《歌姫》は生まれながらに不思議な力と小さな石、《種子》を持っていること。それ故に、《歌姫》候補もまた《種子》と呼ばれること。この、九条鈴蘭のように。
「どうしたの?」
突然、僕の視界を覗き込んでくる、大きな目。
窓の外を見てたはずの鈴蘭が、いつの間にかすぐ側に顔を寄せていて。びっくりする僕の前で、鈴蘭は首を傾げる。
「ずっと、こっち見てたから。わたしの顔何か変かな」
「いや、そういうわけじゃ」
「あ、もしかしてこれが気になった?」
人の話は最後まで聞け、と言われたことはないのだろうか。
そんなことを思う僕の前で、鈴蘭は突然左目を覆う眼帯の下に細い指を入れて、その下にあるものを僕に見せた。
当然、それは左目だ。けれど、そこに本来あるべき瞳孔は無い。まるで曇り一つないビー玉が、白目の真ん中に嵌め込まれているようだった。
光の調節器官を持たない左目を眩しそうに細めた鈴蘭は、すぐに眼帯を下ろした。
「変でしょ」
見えなくて不便なの、と言いながら、鈴蘭は何故か嬉しそうに笑っていた。
「これが《種子》なんだよね。今までただの変な目だと思ってたから、話を聞いてびっくりしちゃった」
「そういや、《歌姫》候補には不思議な力があるっていうけど、アンタはどんな力を持ってるんだ? ちょいと披露してくれよ」
運転席からジェイが声をかけてくる。確かに、塔から渡された資料にも、力のことは何も書かれていなかった。
すると。
「力……?」
鈴蘭は、首を傾げた。
「そんなの、わたし、持ってないよ」
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