アイレクスの走馬灯 - snow noise blind
【一日目、夜】
ジェイと鈴蘭の他愛ない話を聞き流しているうちに、夜がやってきた。
辺境で、夜に強い明かりを炊くことは自殺行為だ。変異生物や夜盗に襲ってくれと言うようなもの。だから今日は道の端に車を止めて、一旦休むことにする。
軽い夕食を済ませた鈴蘭は、既に後部座席に横たわって寝息を立てていた。
車から降りると、先に降りていたジェイが傘つきのランプ片手にくつくつ笑う。
「図太い子だな。こんな場所でもよく眠ってるぜ」
「まあ、扱いやすくていいんじゃないか」
「ホリィ」
咎めるような声。僕自身あまりいい表現ではなかったと思う。ただ、どうしても僕はこの《種子》が好きになれそうになかった。
ここに来るまで、鈴蘭はずっと暢気に笑っていた。何がそんなにおかしいのか、僕には全くわからない。
わからないものは、僕をいちいち不愉快にさせる。
「鈴蘭はいい子だぜ。話してればわかる」
「別に、悪いとは言ってない。ただ、僕は……苦手だ」
「そうか? 案外気が合うと思うけど」
「何処が」
このまま話を続ける気になれなくて、話題を変えることにした。
「それよりも、力を持たない《歌姫》なんて、存在しうるのか?」
「あたしは知らないけど、《種子》の中には力に目覚めてないって奴もいるらしいぜ」
「……なるほど」
「ま、あたしらはそんなこと気にせず、鈴蘭を無事に運んでやればいい。そうだろ、仕事人間」
「当然だけど、仕事人間って呼び方はやめて欲しい」
「事実じゃねえか」
事実であることを否定はしない。する気もない。僕は兵隊になるべく造られたのだ、任務のために生きているのは当然のこと。ただ、それと「仕事人間」という呼び名を許せるか、ということは全く別の話だ。
とにかく、そこで面倒くさい話は終わってくれた。
今日はジェイが先に見張りをするというので、交代の時間まで睡眠を取るため、車の中に戻ろうとしたその時……
くしゅん、と後部座席からくしゃみが聞こえた。
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